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「真面目にあのアホ夫婦の相手をすると疲れるだけですよ」


 というのがエドワードの見解だ。


 リリアローズはいじめられてうっとりする性格らしく、フレイディーベルグはいじめるのが楽しい性格らしい。とにかく、あの二人を相手にするとイロイロ精神的なダメージを食らうため、見て見ぬふりがいいとのことだ。


 ちなみに、サーシャロッドはフレイディーベルグとリリアローズ夫妻のことをたった一言「変態」と片付けた。


 祭りは初日の夜が一番盛り上がるそうだ。今日の夜からはじまって明日の夜まで続くそうだが、好きな相手に告白するのは今日の夜で、明日の夜は晴れて恋人となった二人が、祭りの最終日に焚かれるという大きな篝火を見ながら愛をささやきあうとのこと。


 夜になって、サーシャロッドとともに広場に降りると、すでに祭りは盛り上がりを見せていた。花束を持っている男性が多いのは、意中の女性に告白するためらしい。


「エレノアちゃん! あっちにチョコレートがあるわ!」


 リリアローズがチョコレートドリンクを売っている店を発見して、エレノアの手を掴む。


 フレイディーベルグは丸焼き以外の料理が並ぶ屋台に感激して、先ほどから両手に持てないだけの料理を買い込んでいた。


 サーシャロッドは酒の入ったコップを片手に、リリアローズに引きずられるように連れて行かれたエレノアに苦笑している。


 エドワードは――


「リリー様、エドワードさんが大変なことに!」


 エレノアが振り返れば、エドワードは十数人の女性に囲まれていた。


 リリアローズはチョコレートドリンクを二つ購入して一つをエレノアに手渡しながら、小さく笑う。


「エドワードって昔からモテるのよー。次期村長だし、冷たそうに見えて面倒見いいし。本人はまだ結婚しないって言っているのだけど」


 なるほど、つまりエドワードは、たくさんの女性から絶賛求婚され中らしい。


 龍族の女性は自分からぐいぐい行くタイプの女性が多いとのことで、逆プロポーズは珍しくないそうだ。


 チョコレートを持ってサーシャロッドのそばに戻り、手をつないでゆっくりと歩く。


 恋人たちのお祭りと言うだけあって、どこを向いても仲睦まじい男女ばかりだった。


 ちびちびとチョコレートをなめるように飲みつつ、サーシャロッドと一緒に、広場の入口あたりにあるベンチに腰を下ろした。


 サーシャロッドとおしゃべりしながら祭りの雰囲気を楽しんでいたエレノアは、広場のあちこちに独特の模様を掘った木の柱が立っていることに気がついた。


「サーシャ様、あれはなんですか?」


 興味を惹かれて訊ねると、エレノアの視線を追ったサーシャロッドが「ああ」と頷く。


「あれは始祖の神を祀る柱だな」


「始祖の神?」


 エレノアはきょとんとした。始祖の神――、月と太陽の神様以外に神様がいるのだろうか。聞いたことのない名前だ。


「お前が知らなくても無理はないな」


 サーシャロッドは苦笑して、空になったコップをベンチにおくと、エレノアにわかりやすいように教えてくれる。


「私やフレイディーベルグに寿命はないが、私もあいつも世界ができたころから神でいたわけではない。特に周期が決まっているわけではないが、神にも代替わりがある。私もフレイディーベルグも四代目だな」


 長い間、世界を守る神として生きていると、神とは言え長い間に精神が蝕まれることがあるらしい。それを防ぐ措置が「代替わり」で、引退した神たちは人の世や月の宮や太陽の宮で自由気ままに暮らしているそうだ。


「好き勝手にふらふらしているような連中だからな。先代は私の父で、母は先代の太陽の神だったが――、あの二人がどこで何をしているのかは私も知らん。もう三百年ほど会っていないしな。まあ、あの二人の気が向けばお前も会うことがあるかもしれない」


 ちなみにフレイディーンベルグとサーシャロッドは兄弟らしい。さらりと聞かされた事実に驚いたが、言われてみれば二人とも顔立ちが似ているので、エレノアはなるほどと納得した。


「始祖の神は、はるか昔、創世のころにいた神のことだ。あの頃は太陽の宮と月の宮――神の世界が二つに分かれていなかったため、創世の神は一人だったと聞いているが、何千年も前の話なので、私も詳しくは知らない。ただ――……、いや、なんでもない」


 サーシャロッドは何かを言いかけてから口を閉ざし、エレノアの鼻先を軽くつついた。


「そういうわけだから、順当にいけばお前と私の子供が次代の月の神だ」


 子供、と言われてエレノアは頬を染めて俯いた。


 サーシャロッドはエレノアのその反応が気に入ったのか、ぷにぷにと頬をつつき、それから触れるだけのキスをした。


「まあ、二代目の神のように、先代の子が継がなかった例もある。その時になってみないとわからないがな」


 サーシャロッドはもう一度、始祖の神を祀る柱に視線を向けて、一瞬だけ険しい表情を浮かべたが、時間を確かめるように夜空を見上げると立ち上がった。


「あまり遅くなっても村長が心配するな。おいで」


 エレノアの手を引いて立ち上がらせたサーシャロッドが、「恋人たちの時間はこれからだ」と耳元で甘くささやいて来たので、エレノアは耳まで真っ赤になってしまったのだった。

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