5
がんばる、とは言ったものの。
エレノアはソファに座って膝の上においた本をじーっと見つめた。
(飽きられないための、お勉強……)
昨日、少しだけ読んだ内容を思い出して、エレノアの顔が赤くなる。ちょっとだけでも、かなりエレノアには刺激が強かった。
ごくりと喉を鳴らして、エレノアは恐る恐る本を手に取る。
「お勉強お勉強お勉強……」
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、本を開いた。
リリアローズおすすめの恋愛小説は、エレノアは半分読んで挫折した。限界だった。おかげで夕食の時も挙動不審になってしまって、サーアやロッドに心配そうに見つめられてしまった。
サーシャロッドと一緒にお風呂に入っているときも油断すると小説の内容が脳裏に蘇ってきて、危うくのぼせそうになったし、もう散々だ。
だが、飽きられないためには必要なことだと言うのだから、がんばらなくてはならない。
小説に書かれていることをその通りに実践することはできそうもないが、ちょっとだけならきっと頑張れる。
エレノアの髪を乾かし終えたサーシャロッドが、ベッドの上でおいでと両手を広げて、その腕の中にすっぽりと納まったエレノアは、ぐっと拳を握りしめると顔をあげ――
「さ、サーシャ様、そ、その……、か、可愛がって、ください……!」
勇気を振り絞って、ちゅっとサーシャロッドの唇に触れるだけのキスをしたエレノアは――、その数分後、自分の選択が間違ったことを知った。
エレノアは荒い呼吸をくり返しながら、サーシャロッドの腕の中でぐったりとしていた。
エレノアの「可愛がって」発言はサーシャロッドの変なスイッチを押してしまったらしく、エレノアは先ほどまで彼の手によってめちゃくちゃにされていた。
(壊れるかと、思った……)
サーシャロッドは満足そうにエレノアの上気した頬をくすぐっている。
「それで、お前はいったい何をはじめたんだ?」
くすくすと楽しそうに笑っているサーシャロッドは、まるで、エレノアとリリアローズの内緒話を知っているかのようだった。
飽きられないように頑張っている最中です、とはさすがに言えなくて、エレノアが返答に困っていると、サーシャロッドが耳元でささやく。
「ベッドの下に隠している本と関係が?」
ばれている。
エレノアは真っ赤になったが、サーシャロッドの追及は続く。
「何の本かは知らないが、どうせリリアローズあたりにそそのかされたんだろう。それで、お前は何をしている?」
「そ、それは……」
エレノアが言い訳を考えて口ごもっていると、サーシャロッドの手のひらがエレノアの腰のあたりを撫でた。そして、低い声で言う。
「何か悪だくみをしているのなら――、仕置きが必要か」
「ひっ」
お仕置きは嫌だ。
エレノアはぷるぷると首を振った。隠してお仕置きされるのと、恥ずかしいけれども白状するのであれば、白状する方がずっといい。
「じ、実は―――」
「飽きる?」
エレノアが説明を終えると、サーシャロッドが不機嫌になった。
どうして機嫌が悪くなったのかがわからず、おろおろしていると、サーシャロッドがエレノアを組み敷いて薄く笑った。
「お前は何もわかっていない」
サーシャロッドの指が、エレノアの首筋を撫でて下に降りていく。
エレノアはぎくりとした。
先ほど苦しいほど抱かれたのに、まただろうか。体が気だるくて、指を動かすのもしんどいくらいなのに、これ以上はとても耐えられそうにない。
まだ火照っている体に指を這わされて、エレノアの肩がピクリと跳ねる。
「リリアローズの言う『飽きる』とお前の思っている『飽きる』は微妙に違うだろうが……、私がお前に飽きることなどありえない」
唇が塞がれて、優しくからめとられる。ちゅっとリップ音をさせて唇が離れると、こつんと額が合わさった。
「このまま嫌と言うほど思い知らせてやりたいが、明日は出かけるそうだから、さすがに動けなくさせるのはまずいな」
「ん……、お出かけ……?」
「なんだ、聞いていないのか。リリアローズの育った村で祭りがあるらしく、明日はそこに行くと言っていたぞ」
「お祭り、ですか?」
聞いてはいなかったが、祭りには行きたい。
エレノアがそう答えると、サーシャロッドは仕方ないなと肩をすくめて、エレノアを開放してくれた。
汗を流すため、エレノアを抱えて浴室に連れて行きながら、しかし念を押すのは忘れていなかった。
「次に飽きるなんて言ったら、足腰立たなくなるまでその体にわからせてやるからそのつもりでいろよ」
エレノアはサーシャロッドの腕の中で真っ青になると、こくこくと何度も頷いた。
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