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結局のところ、今わかっているのは黒い水晶が雪だるまの妖精を黒く変異させてしまうことと、青水晶がそれを浄化して元に戻すことができるというだけだった。
サーシャロッドとエレノアは、明日には月の宮殿に戻る予定だったが、さすがに正体不明のこの事件を放置して帰ることもできず、サーシャロッドはもうしばらくこちらに滞在するらしい。
エレノアは先に帰っているかと訊かれたが、サーシャロッドと離れるのは嫌だったので残ることにした。
寒いところが嫌いなラーファオは、明日、リーファとともにいったん月の宮殿に戻り、サーシャロッドのいない間、雑務処理をしておくそうだ。
夜も遅くなってきたので、いったん話を切り上げて部屋に戻って来たエレノアは、当たり前のようにサーシャロッドに浴室に連れて行かれてしまった。
「さ、サーシャ様! 一人で入れますっ」
「妙なことが起こったからな、一人だと危ないだろう?」
サーシャロッドはもっともらしく言って放してくれないが、すごくイイ笑顔を浮かべている。
「それに、明日からはリーファもいないからな。私が代わりに風呂の世話をしてやろう」
「ひ、ひとりでできるもん……!」
小さな子供ではないのだから大丈夫だと言ってもサーシャロッドは首を縦に振ってくれない。
浴室へ連行されて全身ピカピカに磨き上げられたエレノアは、風呂から上がったあと、サーシャロッドの膝の上でぐったりした。
サーシャロッドのそばにいたいが、明日からも風呂は一緒なのかと思うと複雑だ。
「明日からポールとともに雪山を調べに行くが、お前はここでいい子にしていろよ?」
頬をくすぐられて、エレノアは小さく頷く。
そして、風呂の中で暴れたて疲れたのと、今朝は明け方近くまでサーシャロッドに「子作りの予習」をされていたせいで寝不足なエレノアは、ごしごしと目をこすった。
眠いのか、と訊かれて素直に頷く。
サーシャロッドはエレノアを腕に閉じ込めでベッドに横になった。
サーシャロッドの腕の中は温かくて安心するから、ベッドに横になって抱きしめられるとすぐに眠たくなってくる。
「ポールさん、浮気じゃなくて、女王様よかったですね」
眠くてぼんやりした頭でそう言えば、サーシャロッドが苦笑した。
「あれは女を見ればすぐにちょっかいを出しに行くどうしようもない男だが、意外と一途なんだ。特に雪の女王には惚れこんでいて、私の宮殿を出て雪の女王のもとへ行かせてくれと土下座までした男だ。変な間違いを起こして自分の幸せを棒にするような愚かなことはしないさ」
それにな――、とサーシャロッドは内緒話のようにエレノアの耳に口を近づけた。
「女王も本心から疑っているわけじゃない。ただ、それでも面白くないのが女なのだろう」
「じゃあ、仲直り……?」
「元から、喧嘩というほど大げさなものじゃない」
「よかった……」
エレノアがふわふわと笑うと、サーシャロッドが愛おしそうに額に口づける。
「お前は、もしも私が浮気したら、どうするんだ?」
声には楽しそうな響きがあった。
エレノアはうとうとと瞼を上げ下げしながら「むー」と微かに眉を寄せて、サーシャロッドの胸にぴったりと頬をつけ、
「……たぶん……、ないちゃ…う」
とつぶやいてからすーっと寝入ってしまう。
サーシャロッドは虚を突かれたかのような顔をしてから、エレノアの髪に顔をうずめるようにして抱きしめた。
「あー、もう。……理性が崩壊しそうだ」
そんな神様のつぶやきは、すっかり眠りに落ちた溺愛する妻の耳には届かなかった。
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