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エレノアはせっせと窓を拭いていた。
サーシャロッドから彼の仕事の手伝いというお役目をもらったが、結局のところ、エレノアには普段は何もすることがない。
そのため、何かないかと考えて、妻らしく、掃除や洗濯をしてみることにした。
料理も、リーファにお願いして、昼食をエレノアの担当にしてもらった。
朝食にしなかったのは、朝はサーシャロッドがなかなかベッドから出してくれないからで、夕食は品数が多くて少々エレノアにはハードルが高いから。
掃除は、掃除好きの妖精たちがいるので、エレノアの担当はエレノアとサーシャロッドの生活スペースのみだが、それでも少しはサーシャロッドの役になっているような気がして、エレノアは嬉しくなる。
せっせと廊下の窓を磨いていると、たくさんの本を抱えたラーファオが通りかかった。
ラーファオは、サーシャロッドの仕事の補佐をしているらしい。人間界の監視のほかにも、この月の世界――月の宮の雑務に追われているらしいサーシャロッドは、いろいろとやることが多いそうだ。
わかりやすく言えば、この月の宮という世界全体の王様のようなものとのこと。
サーシャロッドの仕事部屋には立ち入ったことがないが、ラーファオ曰く放っておくとすぐに本や書類であふれかえってしまうようで、彼が整理整頓をしているらしい。
最初は、サーシャロッドがラーファオにエレノアと会うのを禁止していたのだが、それもようやく解禁されて、普通に話ができるようになった。
もっとも、ラーファオにうっかり触ってしまうと、消毒と称して浴室に押し込められて隅々まで洗われてしまうので、エレノアは彼との距離の取り方に慎重だ。
「今日のティータイムのおやつは、マカロンです。ラーファオさんも食べに来てくださいね」
午前中、昼食の準備をする前に、マカロンをたくさん焼いておいた。
「マカロンですか。いいですね。あ、でも、俺に先に教えたことはサーシャロッド様には内緒にしておいてくださいよ。嫉妬して八つ当たりされたらかないませんからね」
まさかティータイムのおやつを先に教えたからと言ってサーシャロッドが嫉妬するとは思えなかったが、ラーファオがあまりにも真剣なのでエレノアは素直に頷いた。
そして、「ではあとで」と言いながらラーファオは通り過ぎようとしたが、何かを思い出したように足を止める。
「そうそう。サーシャ様のところに、雪の妖精の女王からの招待状が届いていましたよ。もしかしたら、行くことになるかもしれませんね」
年中雪の降らない温かい国ですごしてきたエレノアは、小さく首をひねった。
「……ゆき?」
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