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「私情と言えば、まあ私情だな」
最後にとんでもないものを見てしまって脳が凍り付きそうになったエレノアだったが、リリアローズに言われた「話し合いは大切」という言葉は忘れていなかった。
悩んだ末にフレイディーベルグから聞かされた祝福の件をについて訊ねると、サーシャロッドは苦笑を浮かべてそう答えた。
ベッドの上に胡坐をかき、エレノアを横抱きにしたサーシャロッドは、不安そうに表情を曇らせている妻の頬を指先でつつく。
「そんな顔をするな。確かに腹が立っていたから私情と言われれば確かにそうだが、お前の元婚約者が祝福を与える基準を満たしていなかったのも本当だ。だから、お前のせいじゃない」
やはり、サーシャロッドはエレノアが人間界でどのような扱いを受けていたのか知っていたらしい。サーシャロッドは大丈夫だと言うが、彼の判断にエレノアの存在はやはり影響していて――、エレノアは素直に頷けない。
毎日、サーシャロッドに甘やかされてすごして何もしていない。さらに彼の神としての仕事に余計な影響を与えてしまっているのでは、妻として失格なのではなかろうか。
しょんぼりしていると、サーシャロッドに鼻先をつままれた。
「大丈夫だというのにお前はそんな顔をするんだな」
「だって、わたし、何もサーシャ様のお役に立てていないのに、ご迷惑……」
「迷惑ではないし、私にはお前がそばにいてくれるだけでいいのだが――、と言っても、納得しないんだろうな」
サーシャロッドはやれやれと肩をすくめた。
そしてエレノアの顔を覗き込むと、小さく笑う。
「それなら、お前は私の仕事を手伝うというのでどうだ?」
「サーシャ様の、お仕事?」
「そうだ。私やフレイディーベルグの仕事は、人間界の監視だ。世界が問題なく回るように、な。普段はただ観察しているだけだが、何かあれば直接人の世に降りることもある。そういう時に、お前は私についてくる。これでどうだ?」
それでは結局のところ、ただサーシャロッドにくっついているだけのようにも聞こえるが、月の宮殿でただ甘やかされているだけの毎日に比べるとかなりの進歩だ。
エレノアが頷けば、サーシャロッドは「それではこの話はもう終わりだ」と言って、エレノアの額に口づけを落とした。
そのままころんとベッドに転がされて、覆いかぶさってきたサーシャロッドに唇を奪われる。
サーシャロッドの大きな手が、首から肩へ、そして腰へと滑り落ちると、エレノアはもう何も考えられなくなって、彼の暖かい腕の中に甘えた。
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