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「あー、満腹。リーファのご飯は相変わらずおいしいねぇ。妻っていうくらいだからてっきりエレノアのご飯が食べられると思ったんだけど、まあこれはこれで満足かなぁ」


 お腹の上を撫でながら言うフレイディーベルグの言葉がグサリと心に突き刺さって、エレノアはうつむいた。


 やっぱり、今のままでは妻として失格なのかもしれない。もっとちゃんと、妻としての仕事をしなければ。ただ甘やかされているだけではダメだ。


(もっと、サーシャ様の役に立つことをしないと)


 エレノアは一人でそう決心するが、サーシャロッドはまだ機嫌が悪いらしく、フレイディーベルグに噛みついている。


「私のエレノアの手料理を、お前に食べさせるはずないだろう!」


「うわ、狭! 心が狭い! 狭量な男はモテないぞ」


「うるさい! お前みたいな変態よりよっぽどましだ!」


「いやいや変態より狭量の方が問題だよ」


 変態なのは認めるんだ――、とエレノアはちょっぴり怯えて、食器を片付けていたリーファを見上げれば、彼女も苦笑を浮かべていた。リーファはフレイディーベルグとは面識があるらしい。


 フレイディーベルグは食後のお茶を飲みながら、デザートにと出された桃の糖蜜煮に手を伸ばした。


「うちの奥さん、何でもかんでも丸焼きにするからさー。ちゃんとした料理を食べたのは久々だよ」


 聞けば、フレイディーベルグの妻はなんと龍族だそうだ。得意技は火を吐くことだそうで、食事は三食、肉や魚の丸焼き。さすがに飽きたと口を尖らせるフレイディーベルグは、ちらりとリーファに視線を向けて、


「リーファ、ほしいなー」


 と言い出した。


 すかさずラーファオがフレイディーベルグからかばうようにリーファを抱きしめる。


「以前も言いましたが、リーファは俺の妻です」


「じゃあ、ファオも一緒に来ればいいじゃない」


「あなたは何かとこき使いそうなので、お断りです」


 ラーファオはリーファをこれ以上フレイディーベルグの視界においておくと危険だと判断したのか、彼女を連れて部屋を出て行ってしまった。


 フレイディーベルグは口を尖らせたが、すぐに興味が失せたようで、再びエレノアに視線を戻す。


「それで、エレノアちゃんの手料理、食べてみたいなー」


「なにが、それで、だ。食べさせないと言っただろう」


「君だってうちの奥さんの手料理食べたことがあるじゃないか」


「肉の塊を丸焼きにしただけのものを料理とは言わない」


「そうなんだよねー。そこなんだよ。もう少し努力ってものをしてくれてもいいと思うんだよね。塩味の肉とか塩味の魚とか、さすがに毎日だと。ほら、こういうの? 桃の糖蜜煮? こういうのも食べたいんだよ。わかる? この気持ち。なのに全然いうことを聞かないからさー、家出してきちゃった」


 えへ、と舌を出すフレイディーベルグに、サーシャロッドはあんぐりと口を開けた。

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