6

 そして、三週間後――


 カモミールの姫とヤマユリの王子の結婚式は、よく晴れた日の青空のもとで執り行われた。


 場所は、カモミールの妖精たちが暮らす泉のそば。


 咲き乱れているカモミールの花が風に揺れる様がとても愛らしく、日差しを反射した泉がキラキラと輝いていて美しい。


 テーブルの上にはたくさんのごちそうが並べられて、その中にエレノアとリーファが作り、妖精たち飾り付けたカップケーキが、塔のように高く積み上げられていた。


 生まれてはじめて参加する結婚式に、エレノアの胸はどきどきがおさまらない。


 真っ白いドレスを身に着けたカモミールの姫はとてもきれいで、同じく白いタキシード姿のヤマユリの王子は凛々しく、しかし緊張しているのか表情が強張っている。


 赤いシンプルなドレスに身を包んだリーファも、夫であるラーファオとともに出席していた。


 神父役は、妖精の翁がするらしい。


 以前、エレノアを乗せて暴走した空飛ぶ木馬の製造者らしく、エレノアもついさっき挨拶をしたばかりだ。


 もふもふの白ひげを蓄えた、優しそうなお爺さん妖精である。


 月の宮殿で暮らす、ばあやも出席していて、相変わらず自分の背丈よりも長い杖を持って、しかし優しいまなざしで二人を見守っていた。


 二人が誓いの言葉を述べて、キスを交わすと、わっと周囲が沸き立つ。


 妖精たちが口々に「おめでとうー!」と言い合いながらカモミールの花のフラワーシャワーを二人に浴びせかけた。


 エレノアも一生懸命に拍手をしながら、隣のサーシャロッドに笑いかける。


「カモミールのお姫様、とってもきれいですね!」


「私にはお前の方が何倍も美しく見えるけどな」


 すると、なぜかラーファオが張り合うように、ぎゅっとリーファを抱きしめて、「俺のリーファも負けていません」と言いはじめた。


 ラーファオの腕に抱きしめられたリーファはあきれたように「あなた、お酒飲んだわね」と言っている。


 見ればラーファオの顔は赤くなっていて、片手にシャンパングラスが握られていた。


「お酒弱いのに。仕方がないわね」


 そう言いながらも、リーファの顔は怒っていない。ラーファオに抱きしめられたまま優しく微笑んでいた。


 式が終わると、そのまま宴会がはじまり、妖精たちがダンスを踊ったり歌を歌ったりする余興をサーシャロッドの一緒に眺める。


 エレノアたちがお祝いに持って来たカップケーキは好評で、あっという間に半分以上がなくなった。


「えれのあ、いいことおしえてあげるー」


「おもしろいことー」


「あのねー、おきなはばあやのことがだいすきなんだよー」


「もう、なんじゅうねんも、ばあやにあたっくしてるのー」


「でも、いつも、ふられるんだよねー」


「ほらほらみてー!」


「あそこー!」


 エレノアの周りを妖精たちが取り囲み、楽しそうにくすくす笑いながら、遠く離れた場所を指さした。


 見れば、ばあやのもとに妖精の翁が近寄っては、何かを言ってがっくりと肩を落としている。妖精たちに寄れば「またふられたねー」とのことだが、なるほど、あんなところにも小さなロマンスがあったのかと、エレノアは可哀そうに思う反面楽しくなった。


 誰かのことを好きになって、その好きな人と結婚する――。そんなこと、人間界で暮らしていたころのエレノアには考えられない。


 これもすべて、サーシャロッドのおかげだ。


「サーシャ様、わたしをここに連れてきてくれて、ありがとうございます」


 ここに来なければ、エレノアは冷たい泉のそこで静かに息を引き取っていただろう。


 楽しいことも、幸せなことも何も知らないまま、ただ一人で。


 サーシャロッドは優しく微笑むと、エレノアを抱き寄せて、その唇に軽いキスを落とした。

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