3
「パーティー?」
エレノアは生クリームを泡立てていた手を止めた。
今日は桃をたくさん使ったババロアケーキを作る予定だ。
妖精たちが持ってきてくれた桃をピューレ状にして、ババロアの材料とあわせて作るのである。
余った桃をもぐもぐと食べながら、妖精たちが口々に言った。
「そう、ぱーてぃ!」
「えれのあの、ありがとうで、おめでとうなぱーてぃー!」
「三かげつ、おめでとうー」
「三かげつ、ありがとうー」
「お庭でごちそうたべて、わいわいするのー」
「ありがとうでおめでとうな、パーティー?」
エレノアが首を傾げると、要領を得ない妖精たちにかわって、ケーキの型の底に薄く切ったスポンジケーキをしいていたリーファが答えてくれた。
「エレノア様がいらして明日で三か月ですから、お祝いしようと妖精たちが」
なるほど、そういうことか。
エレノアは嬉しくなって、妖精たちに小さく微笑みかけた。まだぎこちないが、自然と笑えるようになってきている。これも、サーシャロッドやリーファ、妖精たちのおかげだった。
「ありがとう」
エレノアが微笑むと、妖精たちは嬉しそうにきゃいきゃいと騒ぎ出す。
「えれのあ、わらったー」
「わらったー!」
「ぱーてぃーはあしたなのー」
「おにわでするのー」
「ごちそうは、りんりんがつくるのー」
「たのしいねー」
「うれしいねー」
くるくると空中でダンスを踊るように回りながら妖精たちがはしゃぐので、エレノアも楽しくなる。
ババロアを冷やし固めて、ホイップした生クリームとカットした桃で飾り付けてテーブルに用意すると、見計らったようにサーシャロッドが現れた。
「明日はパーティーだそうだぞ」
どうやらサーシャロッドにも連絡が入っていたらしい。
「はい、聞きました。お祝いって。嬉しいです」
エレノアは桃のババロアケーキをカットして、リーファが煎れたお茶と一緒にサーシャロッドの席の前におく。
サーシャロッドに当たり前に用に膝に抱きかかえあげられたが、最初は真っ赤になっていたことを思えば、この三か月で慣れたのかもしれない。少なくとも、緊張して固まるようなことはなくなった。
サーシャロッドが、ババロアケーキをスプーンですくって、エレノアの口に運ぶ。ティータイムのおやつを口に運ばれるのは、相変わらずまだ恥ずかしいが、それでもスプーンやフォークが目の前に来れば反射条件で口を開けるくらいにはなじんでしまった。
ガリガリだった体も、まだ細いとはいえ、女性らしい丸みを帯びてきている。だが、サーシャロッドの「肉付きチェック」は続いているので、まだ足りないのだろう。
(三か月……)
もうそんなに時間がたったのかと思う反面、まだたった三か月なのかと驚く自分もいる。三か月前には考えられなかったほど幸せで、この短い時間の間にすっかりここの生活になじんでしまっていた。
不要だと山の中に捨てられたときは、絶望して生きることすら諦めようとしたのに。
妖精たちは「ありがとう」と言ってくれたが、エレノアの方こそ、「ありがとう」と言いたかった。
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