7

 サーシャロッドにたくさんお仕置きされて、エレノアはふらふらになりながら中庭にやってきた。


 宮殿の外にカモミールの姫を探しに行けば、きっともっとひどいお仕置きをされそうで、エレノアは怖くてカモミールを探しに行けない。


 ドレスで隠れているが、サーシャロッドにたくさん吸い付かれて、鎖骨から胸元、そして腹にはたくさん赤い痕が浮かんでいる。


 たくさんつねられて、胸の先端はまだじんじんと熱を持っていた。


 言いつけを守らず黙って裏山に上ったエレノアが悪いのだが、お仕置きはもうこりごりだ。


 仕方なくエレノアは、ヤマユリの王子に手渡された一輪のヤマユリをそっと中庭のサクランボの木の根元におく。


 もしカモミールの姫が戻って来ていたら、このヤマユリに気づいてくれないかなと思ったのだ。


 そして、エレノアがサクランボの木のそばを立ち去ろとしたそのとき。


「……あんたばっかり、ずるいわ」


 小さな声が聞こえて、エレノアは振り返った。


 するとそこには、泣きはらした赤い目をした、カモミールの姫がいた。


 よかったとほっとするエレノアのそばまで飛んでくると、エレノアの髪を一房つかんでグイッと引っ張る。


 痛くて顔をしかめると、ぷっくりと頬を膨らませたカモミールがわめいた。


「あんたにはお兄様がいるのに! ヤマユリの王子まで! わたしの方がずっとずっと好きなのに! ずるい! ずるいわ!」


 そう言ってぐいぐい髪を引っ張られるから、エレノアは頭を押さえてその場に膝をつく。


「お願い、は、離して」


 しかしカモミールは「ずるい、ずるい」と叫びながら、エレノアの髪を引っ張ることをやめない。


 エレノアが半泣きになりながら弱り切っていると、突然頭皮の痛みが和らいだ。


 顔をあげれば、カモミールの姫をつまみ上げたサーシャロッドが立っている。


 どうやら月の宮殿の妖精たちが、カモミールの姫がエレノアの髪を引っ張り続けるのを見て慌ててサーシャロッドを呼びに行ったらしい。


 エレノアは安堵して息を吐きだすと、サクランボの根元においたヤマユリを持つと立ち上がった。


 サーシャロッドの手の中でバタバタと暴れているカモミールの姫に、そっとヤマユリを差し出す。


「これ、ヤマユリの王子様が渡してほしいって」


「……え?」


 カモミールはきょとんとして、おずおずと手を伸ばした。


「これ、わたしに?」


 エレノアはこくんと頷く。


「あんたじゃなくて、わたしに……?」


 カモミールがそっとヤマユリを受け取る。すると、ぱあっとヤマユリから淡い光があふれ出て、そして――




「僕はカモミールの姫のことが、大好きです―――!」




 ラッパのようなヤマユリの花から、ヤマユリの王子の声が大きな音であふれ出た。


 カモミールの姫が大きく目を見開いて、ヤマユリを持ったまま両手で口を押える。


 びっくりしているエレノアの肩を抱き寄せたサーシャロッドが、「だから放っておけと言っただろう」と苦笑していた。

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