2

 サーシャロッドの月の宮殿に来て、一か月がすぎた。


 サーシャロッドにベッドの上でぷにぷにと全身を触られているエレノアは真っ赤な顔をしてぎゅっと目を閉じている。


 一か月たっても、サーシャロッドの「肉付きチェック」には慣れない。


 この一か月の間、一生懸命たくさん食べるようにしたから、がりがりだった体には少し肉がついてきたように思うけれど、サーシャロッドに言わせればまだまだたしい。


 ただ、二の腕と腹の触り心地が前よりもふわふわしているらしく、彼はちょっぴり満足そうだ。


「ここはまだ全然肉がつかないな」


 そう言いながら夜着の脇の隙間から手を滑り込ませて胸を触ってくるから、エレノアはぴくんと肩を揺らして硬直する。


 ほとんど平らに近い胸をふにふにと揉まれると、恥ずかしいし、背筋がぞくぞくする。


 最初は必死に体に力を入れるのだが、ぞくぞくとせり上がるような妙な感じがして、だんだんと体が弛緩していく。


 くたりとサーシャロッドに寄りかかれば、彼はエレノアの方に顎を乗せて、脇をくすぐるように撫でた。


「ふわあっ」


 突然くすぐられて、エレノアが声をあげると、サーシャロッドが楽しそうに笑う。


 そして、夜着から差し入れていた手を抜くと、エレノアを横抱きに抱えなおして、その唇にちゅっと口づけを落とした。


 メロンの蔦に閉じ込められた時にはじめてキスを交わしたあと、サーシャロッドはこうして毎晩キスしてくるようになった。


 これも恥ずかしいけれど、優しく唇が触れ合うとなんだか気持ちよくて、エレノアは真っ赤になりながらも素直に受け入れる。


 キスをしながらゆっくりと体が倒されて、髪を梳くように撫でられると、瞼がだんだんと重たくなっていくのだが――


「えれのあ―――!」


 目を閉じかけたエレノアは、突然聞こえてきた声にびっくりして目を開けた。


 普段、夜には決して寝室に入ってこない妖精たちが、突然わらわらと押しかけて来た。


 エレノアはサーシャロッドとキスをしていたところを見られて真っ赤になったが、妖精たちはそんなことはお構いなしだ。


「お前たち、夜は来るなと……」


 サーシャロッドもあきれ顔だが、妖精たちは「ごめんなさーい!」と言いながらエレノアを取り囲む。


「えれのあ、かみのけちょうだい」


「いっぽんでいいからー!」


「おねがいー」


「どうしても、えれのあのかみのけがいるのー」


「か、髪の毛……?」


 エレノアの髪の毛がどうして必要なのだろう?


 不思議に思ったが、ちょうだいちょうだいと言われて、エレノアはそっと自分の髪の毛を一本抜き取る。


「こ、これでいいの……?」


 髪の毛を渡すと、妖精たちは「ありがとうー!」「おじゃましましたー」と叫びながら部屋を出て行った。


「相変わらず、突拍子もない奴らだな」


 残されたエレノアはしばらくきょとんとしていたが、サーシャロッドに頭を撫でられると、やがて再び襲ってきた睡魔に、ゆっくりと瞼を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る