ターレスの才と、後世の影響
哲学の祖であるギリシャ時代のターレスは、数学や天文学にも詳しく、七賢人の一人として数えられる人物。
ある時、それなりに質素な生活をしていたターレスに、嫌味な金持ちが、
「なんだ。賢人と呼ばれているくせに、貧しい生活を送っているな。いくら賢人と呼ばれていても、金を儲ける才能はないと見える。よくそれで賢人と呼ばれたものだ」
と、ターレスに言い放った。それを聞いたターレスは怒り心頭。
「なるほど。金を儲けて見せろと言うのだな。やってやろうではないか」
そしてターレスはあっという間に大儲けをしてみせ、金持ちを驚愕させた。
「恐れ入りました。こんな短期間のうちに、いったい、どのような方法でそこまでの利益を得たのですか?」
するとターレスは鼻で笑ってこう言ったそうだ。
「オリーブの投機です。私に言わせてみれば、オリーブの投機ほど相場が読みやすいものはない。いいですか、私は別に金儲けをしたくて勉学や知識を求めているのではありません。あくまでも自己の追及と、万物の心理を理解したいがために人生を捧げているのです。私には、多くのお金など必要ないのです。日々を少し不自由に暮らせる程度のお金があればいいのです。少しの不便が、私の日々を満ち足りたモノにしてくれるのです。だからこそ私は、必要でないものを多く得ようとすることなどという、そんなことに知識と労力と時間を使いたくないのです。御理解いただけましたかな?」
ターレスからそう言われ、金持ちは自らの愚かさに気づき、ターレスへの支援を申し入れたが、ターレスはこれを拒否した。まあ、当然である。
そんなターレスだからこそ、
「なんじ、自身を知れ」
という彼の名言が際立つというものであろう。
そして後世において、オスカー・ワイルドがターレスの名言をこう変化させた。
「なんじ、自身たれ」
彼はそれが今後の生き方だと言ったのだ。
個性の自覚だけでなく、その発展も重要だという意味である。
天才の言葉というものは、別の天才に影響を与え、その言葉や思想を進化させていくものなのだろう。
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