エジソン・ウォール街での教訓


 エジソンが自分の発明で大きく金を儲けたのは、新式の相場受信機をウォール街のとある社長のもとへ売り込みに行ったのが最初。

 エジソン本人としては、開発にそれなりな額がかかっているので、せめて五千ドルほどの値をつけたかった。しかし、なにぶん初めての交渉なので、どのように値をつければいいのかわからない。仕方なしに、エジソンは言った。


「あなたの言い値で結構です」

「ふむ? 私の言い値でいいと言うのかね?」

「はい」


 不敵な笑みを浮かべる社長の顔を見て、エジソンは嫌な予感がしたが、言ってしまったものはどうしようもない。


「では、これで売ってもらうとするか」


 社長はささっと小切手に数字を書き込み、それをエジソンへと手渡した。

 小切手を受け取ったエジソンは、おそるおそる小切手に書かれている数字を見た。


『四万ドル』


 思わず社長の顔を見るエジソン。すると、社長は不服そうな声でエジソンに言った。


「なんだね? 安すぎるとでも言いたいのかね? しかし、君が言ったのだぞ。私の言い値でいいと。不満があるのなら、いい勉強になったのだと思うことだ。ウォール街では、安売りは禁物だとな」

「……わかりました。確かに、安売りは禁物のようですね」


 深く御辞儀をするエジソン。しかし、その表情には不敵な笑みが浮かんでいた。

 なるほど、確かに安売りは禁物らしい。特に、このウォール街では。

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