ランドスケープのこぼれ話

怪人X

1 理想のお姉ちゃん計画

 凄惨なバラバラ殺人事件から帰宅して月宮くんが義弟だと判明した。解せない。

「ところで宮城さんが言っていた理想のお姉ちゃん計画って具体的にどういうもの?」

「よくぞ聞いてくれました!!」

「あっ聞かなかったことにしてもいいかな」

「冷たい。でも弟だと思うとものすごく可愛く思える」

「ははは、烈火は昔から兄弟が欲しいってずっと言っていたからなー」

 ちょっと引き気味の月宮くんに、朗らかに笑うお父さん。お義母さんもにこにこと楽しげに見守っている。目元が月宮くんに似てるなあ。いや、もう月宮くんではないのか。

「水蓮くん」

「おお、姉弟っぽいなあ烈火!良かったな〜」

「私は水蓮くんにお姉ちゃんって呼んで欲しい……」

「いや、この年でそれはちょっと」

 速攻の拒絶だった。

 悲しく散った私の野望。ぶくっと堪えたような笑い声が聞こえた。どうやらお義母さんの笑いのツボに入ったらしい。


「二人とも中々帰ってこないから、心配していたのよ。水蓮から、烈火ちゃんと一緒にいるって連絡は貰ってはいたけど」

「ごめんなさい。本当は早く帰ってきて、色々準備したかったのに……」

「いいのよ。待っている間に、衛士さんとご馳走を作っていたの」

「美砂子さんは料理が上手だぞ、烈火」

 お義母さんが楽しそうに微笑む。ちなみに衛士さん、とは私の父のことだ。美砂子さんが水蓮くんのお母さんで、私の義母となった人。

「うう、それは嬉しいけど私の手料理で弟をメロメロにしたかった」

「烈火さんの中の弟のイメージってどうなってるの……」

「せめて烈火ちゃんにして!水蓮くん!お姉ちゃんって呼んで!!」

「えー……とりあえずお姉ちゃんとは呼びたくないかな……」

 びっくりするほど水蓮くんのテンションが低い。遠い目をしている。

「でも、二人が気が合いそうで良かったわ」

「あー……まあ、そうだね」

 お義母さんがとても嬉しそうに笑ってそう言うと、水蓮くんも笑みを浮かべた。


 これは後から聞いた話だけど、お互いの子供も二人とも成人している。だからもし気が合わないようだったら、別々に暮らすことも視野に入れていたそうだ。特に水蓮くんは元々仕事場に泊り込むこともよくあったそうで、これを機に一人暮らししても良いと考えていたのだとか。

 お父さんはその話をしていた時、大丈夫だよと呑気に笑っていたそうだけれど。


 ともあれ、宮城家は四人暮らしとなった。元々二人では少し広かった家だから、丁度良い。

 私の理想のお姉ちゃん計画の第一歩たる呼び方については不本意な結果に終わったけれど、何はともあれこれから長い付き合いになる家族だ。ゆっくりじわじわ遂行して、お姉ちゃん大好き!と言って貰えるように頑張ろうと思う。

 まあこの後三日も経たないうちに、お義母さんにも水蓮くんにも散々だらけた姿を見せることになって、理想もへったくれもない状態になるのだけれど。

 家族としての距離感はとても近くなったから、結果オーライということにしてほしい。

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ランドスケープのこぼれ話 怪人X @aoisora_mizunoiro

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