第13話 軌外ふたたび
中華街闇カジノ襲撃事件の2日後。警視庁からまたあの男がやって来た。
「現れると思ってましたよ蓮實警部補」
規制線で囲われた中華飯店の前で出迎えたのは捜査一課の本庄刑事。規制線を潜り中へと入ってきた蓮實は帽子を取り軽く会釈した。
「現場の3階にはどうやって?」
「2階からは従業員用口を通って客を上がらせていたみたいですね。どうぞご案内しますよ」
「どうも」
本庄に連れられて、蓮實はガランとした中華飯店へと足を踏み入れた。正面の階段を上がり2階へ。大広間の脇の入り口からバックヤードに入る。薄汚れたむき出しの裏階段を上り、無機質な鋼鉄製の大きな引き戸を開けると、黒く塗りつぶされた窓の割れた隙間から、差し込む光に照らされる瓦礫の山が見えた。
「聞き取りによると、木刀を持った覆面3人組による襲撃だそうです」本庄が言った。
「それだけじゃ、こんなにならないでしょう?」
「ええ。そのうちの一人がビリヤード台やスロットマシンを投げ飛ばしていたそうです。それはバケモノじみた怪力で。銃撃戦も有ったようですが、その辺りで客は逃げ出したそうで、従業員の方は警察が駆け付けた頃には飛んでましたので詳細は分かりませんが」
「敵対関係は?」
「横浜の博徒組織すべてと対立していたと言っても過言じゃありません。そりゃあ、昔ながらの持ち回りでやってた連中からしたら、こんな派手にアメリカ流カジノを導入されたんじゃたまったものじゃありませんからね」
「それでは、ホシは絞り込めないと?」
「そうなりますね。運営側の中華マフィア自体が隠れちゃってますからねぇ。まだまだ、中華街はアメリカの影響も強いですし、治外法権ですよ」
その後、蓮實は瓦礫の中を歩き廻り、手がかりになるモノが無いかと探し出した。捜索が長時間に及びそうな雰囲気になったので、本庄は声を掛ける。
「私は下に行くので、ご自由に捜索してください」
「どうも」
蓮實は、振り返ることもなく返事だけして捜索を続けた。本庄は、昼飯を取ろうと下の階へ降りていった。
「あー! 本庄さん!!」
表に出たところで、本庄は声を掛けられた。
「おー! 操ちゃんじゃないか! それに日南さんとレン君」
本庄が操たちと立ち話をしている頃。
「これは」
蓮實は、闇カジノの残骸の中から18金で出来た長方形の断片を拾い上げた。ポケットから鉄釘を取り出し、近づける。すると、金の断片に鉄釘がピタッとくっ付いた。
「磁力が残ってる。やはり、定着したということか」
金の断片をポケットから取り出したビニール袋に仕舞うと、階段を降りて出口に向かった。
「あれ? もう、お帰りで?」
外の規制線前で巡査と立ち話をしていた本庄が声を掛けた。
「ええ。ですが、しばらくここに滞在することになりそうです」
去り際に口角を上げ皺の張った微笑みを見せた蓮實。彼がその場を後にしても、本庄はその薄気味悪さに当てられて、しばらく悪寒が治まらなかった。
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