タガ

@nyan-wan

死には死を



「……あら、奥さん……!

あのの彼氏さん、殺されたんですってねぇ……。」


「ええ、ええ。

聞きましたよ、かわいそうにねぇ。

修太郎くんだったっけ……?」


「………。」


いつものこと。


誰もが軽々しく同情し、本気では寄り添おうとしない。


気安く善人を気取ろうとするだけ。


「……おお、碧ちゃん、おはよう。

まだ……辛いよね……犯人……許せないよね。」


普段は会話すらしない近隣住民たちの無責任な哀れみ。




・・・




柳井 令佐やないりょうすけに死刑判決を!!」


「凶悪犯に人権なし!!」


「火炙りにして晒し首にしろォ!!」


うるさく叫んでいる。


修太郎の家族が悲しむのは当然だ。


しかし、何も知らない部外者がなぜ感情的になるのか。


私の方が悲しいのに。


私の方が辛いのに。


修太郎を殺した通り魔───柳井 令佐は現行犯で逮捕された。


心神喪失によって無罪になるという話がある。


でも関係ない。


家族を失う絶望。


恋人を失う悲しみ。


そんな暗闇とは無縁の世界に生きている。


感情的になる理由はない。


死刑にしたがる理由はない。




修太郎を利用するな。


修太郎のことなんて何も知らないくせに。


修太郎を利用するな。


修太郎のことなんてどうでも良いくせに。




心の中で何度もそう叫んだ。




・・・




「お待ちしておりましたよ、倉敷 碧さん。

週刊ジパングの南沢と申します。」


「……。」


今日はこの南沢という男に呼ばれ、態々喫茶店にやって来た。


取材目的らしいが、正直気は乗らない。


両親はこの取材に反対しなかったが、きっと金に目が眩んだのだろう。


否が応でも取材を受けるように言われた。


娘の彼氏の死を金儲けのために利用する。


所詮人間とはそんなものだろうと納得している。


「この度は本当に……辛かったでしょう。

話によれば柳井は心神喪失で無罪になりそうだと……。

しかし、世間はそれを許さんでしょうね。

何せ通り魔として人を殺したのは事実なのですから。」


「……私は分かりません。

なぜ、彼らが怒り狂うのか。

私たち関係者を差し置いて……勝手じゃないですか。」


「では、遺族に同情するのをあなたは快く思わないと?」


「簡単に同情して、善人面して……。

遺族に同情する自分に酔ってるだけにしか見えません。

さっきだって……そういうのを見てきたばかりです。」


「はは、は、楽しいですねぇ……実に良いく。

ああ、いや失礼……笑ったのはお許しください。

あなたに賛成した、という意味で笑ったまでです。

私はあなたのような人間が好きなんですよ。」


「……そうですか。」


「実は私があなたをお呼びしたのはその件でしてね……。」


「どういうことですか?」

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