【5分小説】ガネシとラッタとビラロの物語
嘉飛萬象
第1話 虚栄心
※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。
ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。
「ねぇ、ラッタとビラロは自分に自信を持てなくなったことある?」
「ガネシ!何言ってんだよ、オイラは常に自分が一番だと思ってるぜ!」
「ラッタにはいつも呆れるわね・・・。そう思っていても口にはしないものよ。能ある鷹は爪を隠すって知らないの?」
「冗談だよ。オイラは小さいし、人間なんかに捉えられたらイチコロだ。それはそうとガネシ、どうしてそんなこと聞くのさ」
ガネシは人間界に来てから、神通力を使ってたくさんの人を見て来た。そこで気になったことがあった。自分に自信がない人ほど自分を大きく見せようとしていることに。人間は虚栄心の塊のようだった。
「ラッタ、僕からしたらラッタは頼もしいよ。いつも勇ましいよ。そうやってすぐ素直に自分の弱さを認められるところもすごいなぁって思う。でも僕はラッタは弱くないと思うんだ。とても寛大な心を持っているよね」
「態度だけはいつでもデカイかもしれないわね」
「せっかくガネシが褒めてくれているのに台無しだ!・・・でも正直なところ、自分に自信がないからこそ、頼られたい、大きく見せたいっていうのはあるかもしれないな。頼られることで、自分が生きているって実感するんだ。こんなオイラでも求めてくれるのが嬉しくて。だからオイラはできる限り元気で明るくいようって決めているんだ。どんなことがあってもな」
人間というのは皆、承認欲求が強く、誰からも認められたいと思う生き物である。それは弱ければ弱いほど、自分に自信がなければないほど、その欲求は強くなる。でもガネシはラッタの言葉で悟った。誰一人弱い者なんていない。自分は弱いという思い込み。自分は劣っているという思い込みが自信をなくす。そしてそれは時に鬱という形に現れ、時には怒りや妬み、恨みなどの感情として剥き出しとなる。
「人間ってね、こうやって見ているととても不思議なんだ。ラッタみたいに正直に話せる人がいなくて、自分を庇い、自分の弱さを人に見せないように虚勢を張って生きているんだ。見ていて伝わってくるんだ。とても苦しい。とても辛い。とても寂しいって。どうして心を開いて素直になれないんだろう。どうすれば彼らは救われるんだろう」
「ガネシ、オイラがガネシになんでも言えるのはだな、オイラがガネシを信頼しているからなんだ。ガネシって心が澄んでいるんだよ。オイラが何を言ってもそれをバカにしたり、嘲笑ったり、利用しようとしたりしないだろ。だからオイラはガネシにだったらなんでも話せる。誰かさんみたいに途中でチャチャ入れてこないしな」
「その誰かさんって誰かしら?」
「さぁな、ビラロは心当たりあるんじゃないか?」
ガネシは人の心を無差別に見渡した。とても悲しい気持ちになった。とても寂しい気持ちになった。孤独感が溢れ出て来た。この世の人たちは、心の底から誰かを信頼できている人が圧倒的に少なかった。信頼できる誰かと出会うことは奇跡に近いのかもしれない。いや、果たしてそうなのだろうか。心の持ちようひとつで変わるのではないか。「心から信頼できる人がいない」というのも思い込みのひとつにしか過ぎず、その思い込みを取っ払えば人を信頼できるのではないだろうか。
「ラッタ、ビラロ、いつも僕を信頼してくれてありがとう。僕もラッタとビラロのこと心から信頼できているよ。こんな風に思わせてくれて本当にありがとう」
あなたのことを誰よりも理解してくれている人は誰ですか。あなたのことを誰よりも心配してくれている人は誰ですか。あなたのことを誰よりも大切にしてくれている人は誰ですか。家族ですか。友達ですか。同僚ですか。今、この瞬間、あなたのことを想っている人がいます。その人のことを想いながら、心の底から信頼できることに感謝を。
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