マネキンはファッションモデルの夢を見るか

森 真尋

マネキンのポーズ


 マネキンの手を握り、その指を弄ぶアパレルショップの店員がいた。彼の手付きは、まるで愛する人にするようなものだが、おそらく、彼女の姿勢を調整するなど、何らかの作業中であるはずだ。

 ふと、視線を横に向けると、そちらにもマネキンが立っていた。彼女は左手を挙げている。私はそこに不自然さを感じた。


 ハンドサインだろうか、中指と薬指か掌に対して直角に折り曲げられ、他の指は伸ばされている。


 マネキンにしては、否、もしも彼女がファッションモデルであったとしても、不自然である。そして、そこにはきっと意味がある。しかし、そのポーズが何を意味するのか、私にはわからない。

 それはそうと、マネキンのポーズに意味を持たせていいのだろうか。そもそも、ポーズとは意識的にとられるものだ、マネキンにポーズをとらせるべきではないと思う。彼女の姿勢には、最低限の、衣装を効果的に展示するためだけの意味を持たせるべきだ。

 意味があると、それは芸術になる。そして、少なくともアパレルショップのマネキンは、芸術であってはいけない。

 とはいえ、マネキンに自然な姿勢をとれるだろうか、否、無理難題にも程がある。誰かが、自然らしい姿勢をとらせなければならない。

 ここで、その誰かの意図がマネキンに表れる。自然であれという意識が、マネキンにポーズをとらせるのだろう。たとえ、ファッションモデルが自然にとった姿勢をマネキンにとらせても、それは意味のあるポーズになってしまう。


 店員が手を止め、首を傾げながらマネキンの前から去った。弄ばれた挙句、飽きられ捨てられたみたいな、可哀想なマネキンだけが残る。彼女の指は、やはり不自然なポーズをとっていた。

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マネキンはファッションモデルの夢を見るか 森 真尋 @Kya_Tree

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