第10話
「じゃ、また後でね!」
颯君は樹君と私に手を振ると、走って何処かへ行ってしまった。
樹君は私の手を取り、
「連れて行きたい場所があるんだ。こっちに来て、苺」
すたすたとある方向へ歩き出した。
「…う、うん…?」
『フルーツ・ティーポット』という乗り物の乗り場へと、私は彼に連れて来られた。
それは色とりどりのフルーツが、ティーポットの形になった乗り物だった。モノレール式でパーク内をぐるっと一周し、窓から園内を見渡せる様になっている。
「わあ!…可愛い乗り物だね!」
「一緒に乗ろう。ほら、ちょうど苺のポットが来たよ」
目の前に到着した苺のポットに二人で乗り込み、可愛らしい音楽と共にドアが閉まり、パーク内を回り出した。
狭い乗り物の中。
隣に座る彼を、つい意識してしまう。
「…面白いね、ここ。スイーツショップだけじゃ無くて、乗り物まであるなんて…」
「気に入った?」
「うん!すごく!」
笑った私と目が合うと、彼は少し穏やかな表情を見せた。
「…良かった」
彼は自然な仕草で私を引き寄せ、
唇にそっとキスをした。
「…………!」
「………思ったよりもずっと甘い。苺の唇」
………………不意打ち!
「……顔、真っ赤になった。…本物の苺みたい」
青白い炎の瞳が、
生き物のように動きながら
私に向かって煌めいている。
「…………!」
あ、どうしよう。
心臓が、おかしい。
「…………もしかして、ドキドキしてる?」
「…………してる。すごく」
いつも遠くから見てた憧れの樹君が
現実の彼になって私に触れて、
私の反応を見ながら
悪戯っ子の小鬼の様に
面白がっている。
「…………俺も、ドキドキしてるよ」
「…………本当?」
楽しそうな、無表情で。
「…………信じられない?」
「だって樹君、何だかこういうの、…慣れてるみたいで…」
急に彼の表情が氷に逆戻りした。
「…………慣れてるわけないでしょ。キスしたの、君が初めてなんだけど。…そもそも今まで俺、女の子と付き合った事ないし」
…………え?
「…本当に?あんなにモテてるのに?!」
「全部断ってたから。…ずっと、好きな子がいたし」
「…………!」
「…言わせたいの?…君の事なんだけど」
…………!!
「3年間俺は、ずっと君しか見てなかった。…………誤解するなんてひど過ぎない?」
彼は私の体をぎゅっと引き寄せ、
首の後ろに両手をあてながら
私の唇を
味わう様に、キスをした。
「…………」
私は彼に、謝った。
「…ごめん…」
もう一度ゆっくりと、甘い甘いキス。
「…………なんの『ごめん』?」
「…………誤解して…」
彼は角度を変えて、
また長い長い、キスをした。
「…許して欲しい?」
……刺激が強すぎる!
「………うん」
「…じゃあ俺の、言う通りにして」
乗り物がその時、降り口に着いた。
「…『言う通り』…って?」
私は彼の後をついて行った。
「後で話す。約束して」
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