オメガジジイは今日も征く
鹿子
第1話 雨はやまない
雨が降っている。
もうどれくらい降っているのだろうか。ザーザー降る雨を運んできた雲は,見渡す限り空を覆っていた。
降り続ける雨の中,傘もささずに歩く少年がいた。少し猫背で背負ったランドセルは萎れているようだった。
雨の中,少年はぴしゃぴしゃと音をならしながら歩いていた。
耳にこびりついた声が取れなかった。
「あいつの親,生活保護もらってるらしいよ」
(うるせえ,そんなの俺のせいじゃない)
「まじかよ,寄生虫じゃん寄生虫」
(迷惑かけてないんだからいいだろ)
「かわいそーだろ,そういうこというなよ」
(……)
「ふーん,じゃあ,お前が助けてやれよ」
(……)
「いや,それは……」
思考が巡る。記憶が内側で暴れる。クラスのやつらの顔が歪む,不気味な表情が幸太を見て笑っている。
その時だった。バシャン,幸太に水がはねた。左半身がびしょびしょに濡れる。トラックが勢いよく水をはねたようだった。トラックはそのままなにもなかったように走り去っていく。
それがきっかけで涙が漏れそうになる。しかし,ぐっとつばを飲み込んでこらえた。
「どうすればいいんだよ……」
つぶやいたその声は,雨の音に吸い込まれて消えていった。
雨は降り続けていた。
時折,傘が守りきれなかった雨粒が頬に当たる。しかし,幸太は気にもかけなかった。先程,トラックからはねた水でもうすでにびしょびしょなのだ。今更,雨粒を気にする必要もない。
「もう傘もいらないかな」幸太はつぶやき,傘を外してみる。すると,背中が一気に湿り始めるのを感じた。
「うえぇ」と漏らし,幸太は傘をさしなおした。傘の中から,空を見上げ帰り道を歩く。
どこまでも雨雲は空を覆っていた。
ザーザー,と雨は降り続けている。
歩いていると,前方から声が聞こえてきた。ばしゃばしゃと音を立てながら走ってくるようだ。雨の中だからなのか,声が大きい。
「急げ,急げ,遅いぞ陸人!」
「待ってよ,海斗ー!」
幸太は思わず,傘をふかくさし,顔を隠すようにした。
あいつらだ。陸人と海斗だ。身体がこわばる。
二人の声が近づいてくる。
「海斗んちで良いよな!」
「たぶん大丈夫! 早く行こ!」
「よっしゃ,飛ばすぜ!!」
バシャバシャと激しく音を立てながら,近づいてくる。そして,幸太に気づいた様子はなく,水たまりが幸太にはねたことも気にしない様子で走り去っていった。
(……びしょびしょだ)
幸太は傘を指し直して,あるき出した。
雨は降り続けている。
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