第15話 上手くはいかない世界

まあそうだとは思うがそう簡単に上手くいかないのがこの世界だ。

いつかはそうなると思ってはいた。

ただ.....俺は逃げていただけだろうけど。


何がそうなると思っていたかって?

そろそろマズイと思っていたが.....大家さんに沙穂の事に関して電話を受けたのだ。

俺は.....冷や汗がただ出た。


沙穂を俺の部屋で匿う上で.....改めて社会の厳しさを感じた気がする。

俺はそう考えながら.....乾燥した唇を舐めて顎に手を添える。

そして.....対策などを考えているうちに今週の日曜日になって、俺達は近所のスーパーに隣接する携帯ショップにやって来た。

どうなるかは分からないが.....と警戒しながらの入店となったが。


少しだけ不安な思いが有ったが取り敢えずは携帯の契約が取れた。

妹、という点で、だ。

契約については取り敢えずは俺の自動車免許でなんとかなり、俺は.....携帯ショップ店員に、すまない、と思いつつ携帯を受け取り。

そして怪しくならない様に振る舞いながら.....携帯ショップを後にした。



「.....携帯渡しとくな」


「.....はい」


「.....どうしたんだ?」


そんな冷や冷やした契約が終わってから。

携帯ショップを後にして.....歩いている歩道で沙穂は不安な顔を俺に見せてきた。

俺は?を浮かべながら.....沙穂を見る。

沙穂は.....私服の胸に手を携帯を当てていた。

そして不安そうに俺を見てくる。


「.....大丈夫ですかね。大家さんとかに全部がバレないですかね.....?」


「.....正直言って.....この調子では分からない。と言って良いと思う。世の中は決して甘く無いからな。だけど.....大丈夫だ。今までがそうだったろ」


「.....はい.....」


でもその、不安です。

私.....小五郎さんから離れるの嫌です。

この場所でようやっと.....生きる価値を見つけたんです。

だから.....嫌です。小五郎さんから離れるなんて、と呟く沙穂。

そして目を手に当てて涙を浮かべた。


「.....そうだな.....生きる価値か.....。俺もお前のお陰で見つけた様なもんだからな.....」


「.....私もそうです。生きる価値を.....ようやっとこの場所で見つけたんです。小五郎さんから離れるぐらいなら死にます」


「.....そう言ってくれるのは有難いけど.....死ぬのは如何なものかな」


俺は苦笑しながらポケットティッシュを渡した。

しかし.....ハンカチを持ち歩いて無かったのはミスだな。

そんなティッシュを受け取るなり.....沙穂は有難う御座いますと涙を拭った。

俺は.....その表情に柔和に笑みを見せる。


「.....大丈夫だ。どんな運命だろうが.....俺はお前を捨てたり、お前を引き離したりしない。俺はそんな事が有ったら.....立ち向かうさ」


「.....はい。その言葉.....嬉しいです」


沙穂は涙を拭うなり.....俺を優しげに見てきた。

笑み合う、俺達。

その中で俺は伸びをした。

それから.....沙穂に向いてから言う。


「.....という事で.....飯でも食うか。序でに」


「.....ですね。.....小五郎さん」


そうして俺達は飯を食う事になった。

俺は、大丈夫、と言い聞かせながら.....沙穂を見る。

沙穂は俺の手を見ながらモジモジしていた。

ん?何だ?


「その、もし良かったら。手、繋いで良いですか」


「.....手を繋ぐのか?.....あ、ああ。まあ良いけど」


「.....そうすれば恋人とか妹の様に見えませんか?.....それを思いました」


「.....見えるっちゃ見えるが.....うん.....」


それって結構恥ずかしいんだが。

思いながらも直ぐに沙穂は俺の手を握ってくる。

そして.....と言うか.....柔らかいな。

コイツの手.....。


「えへへ。.....とっても嬉しいです」


「.....俺は恥ずいけどな.....」


「.....そしてこのまま恋人になれたら嬉しいですけどね。もっと」


「.....今は無理だけどな。お互いに距離を一定にしたいから」


はい、知ってます。

と沙穂は笑みを浮かべる。

俺は.....その姿を見ながら溜息混じりに苦笑した。

そして.....俺達はスーパーの飲食コーナーで飯を食べて。

そのまま家に帰宅した。



『そっか。.....携帯を契約したんだね』


「.....ああ。じゃ無いと色々と困ると思ってな」


『.....うん。そうだね。何か.....有ったら困るもんね』


「だろ。.....アイツなら信頼出来るから」


階段でその様に会話する。

相手は皆野だ。

いつの間にか.....皆野も居ないといけない存在になっているな。

思いながら俺は手に持っている飲み物を飲んだ。

沙穂は今、家の中だ。


『.....沙穂ちゃんは元気?』


「.....ああ。元気だ」


『.....そうなんだ。だったら良かった』


そんな感じで話している中で.....顎に手を添えた。

果たして.....皆野に話しても良いだろうか。

大家にバレそうになった件を、だ。

思いながらも.....首を振った。

これ以上、皆野に.....迷惑は掛けられないかと判断したから、だ。


『今度、遊びに行くね』


「ああ。また来てやってくれ。宜しくな」


『.....沙穂ちゃんって.....優しいよね。配慮が出来る子だと思う』


「.....だな。それは思う」


アイツを軸に.....世界が回っている様な。

そんな感じがするからな。

思いながら.....俺は前を見る。

薄暗い世界を、だ。


「.....皆野。有難うな」


『.....何が?』


「.....俺一人じゃ.....潰れていたよ。感謝する」


『うん。だね。有難う』


そして皆野との電話を切った。

それから俺は立ち上がって明日を見据える。

何が有るか.....と思う明日を、だ。

だけど.....何も起こらない事を祈りたいもんだ。


「.....さて.....」


それから沙穂の居る場所に戻った。

お帰り、の声が聞こえる世界に、だ。

そして俺は、ただいま、と答えた。



沙穂は携帯を契約した。

次にやるのは履歴書だろう。

思いながら.....沙穂が書いている履歴書を見た。

履歴書には俺の妹だと記している。

そして現住所はこの場所だと記載している。


「沙穂」


「.....はい?小五郎さん。どうしたんですか?」


「.....無理はするなよ」


「大丈夫です。私.....小五郎さんに心配は掛けさせないですから」


じゃ無いと.....小五郎さんが泣きますから。

とからかう様に俺を見てくる、沙穂。

俺は息を吐きながら、泣かないって.....、と苦笑した。

だけど.....確かにな。

沙穂が苦しんだら.....悲しい気持ちにはなる。


「.....冗談です。.....でもその私、大丈夫ですよ。今は元気です。でも.....何か有ったら必ず報告します。貴方が.....保護者ですから」


「.....ああ」


「.....小五郎さん」


「.....何だ?」


改めて、大好きです。

と満面の笑顔を見せる、沙穂。

そして少しだけ恥じらった。


俺はボッと赤面しながら.....頬を掻く。

本当にいきなりだよな.....。

困惑しながらも.....沙穂に苦笑を見せた。


「.....ああ。俺もお前が好きだ」


「.....え?それって恋ですか?」


「あのな.....。そういう意味じゃ無い。でも好きだ。家族として、だ」


「.....なーんだ。あはは」


なんだ、とは失礼だな。

思いながら.....溜息を吐いた。

それから、履歴書が出来ました、と見せてくる。

俺はそれを見ながら.....沙穂を見る。


「取り敢えずは頑張れ」


「.....ですね」


そしてこれはこれで良いと思う。

と俺は笑みを浮かべた。

明日、バイト先に.....沙穂は向かう。

何事も無い様に祈ろう。

考えながら.....履歴書を見た。


よく考えたら明日からの一週間。

かなり色々有るな.....。

龍野さんとのデート?とか.....。

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