第13話 龍野からの提案

この世界は俺にとっては相当に苦しい廻り方をしている。

と言うのは.....俺は本当にこの世界のスピードに付いて行けてないのだ。

俺だけが.....時間がまるで歯車が狂って止まった様に。

動いていない気がする。


何故.....そうなっているのかと言われたら。

俺の幼馴染が.....自殺してからだ。

借金を押し付けられて自殺した.....あの日から。

俺に、ごめんね、と言って自殺した日から。

全ての歯車が止まった。


俺は.....ただ悲しかったのかも知れない。

だから.....殻に籠もって.....ただ動いていたのだ。

それもブリキの人形の様に行ったり来たりを繰り返す日々。

その中で.....沙穂という女子高生に出会った。


沙穂は俺に優しく.....接してくれて。

そして.....俺は心が解けていっていた。

何だか時間も動き出した気がする。

俺は.....沙穂に出会ってから、だ。


本当に沙穂は良い子だと思う。

だけど.....沙穂にこれ以上、迷惑は掛けられない。

だから動こうとしているのに。

上手く.....動けない奴がここに居る。


何でだろうな。

と思っていると皆野が手を差し伸べてくれた。

俺は.....2人に助けられていたのだ。

人は支え合う為に人という文字が作られた。

この意味を.....初めて知った気がする。


俺は.....一歩を踏み出せた気がした。

こんな弱い俺でも彼女達は好きといってくれる。

強い男になりたい。

だから.....進もうと思う。



「今度の日曜日、デートに行かない?」


「.....え.....」


会社に出勤した際にそう言われた。

誰にって言えば龍野さんだ。

まさかだろオイ。


思いながら.....龍野さんを目を丸くして見る。

まさか裏が有るのか!?

思いながらビクビクしつつ聞く。


「.....どういう意味ですか?それってかなり深いですか?」


「.....あはは。そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私ね、貴方が好きなの。貴方の様な真面目な人がね。だから誘っているの。君は.....察しがよく無いから」


「.....へ.....へぇ!?」


何か.....すごい威圧感を感じたんだが。

皆野のデスクから.....黒いオーラが上がっている。

アイツ、パソコン弄っている筈なんだが.....。

思いながら.....龍野さんを見る。


「.....龍野さん。嬉しいんですが.....今度の日曜日は用事が.....」


「あら?そうなの?じゃあ.....水曜日に行かない?休日だしね」


「.....は、はい.....」


駄目だ断れない。

その背後から、貴方は何かを忘れていませんか的な感じの威圧を感じる。

確かに忘れてはいないが.....お前。

龍野さん、年上だぞオイ。

断れないだろ。


「.....龍野さん。俺が好きって.....俺なんかを好いても.....」


「.....貴方は魅力が有るわ。私が言うんだから間違い無いわ。ね?」


ウインクをする美人。

俺は赤面しながら.....皆野を見る。

皆野はマジにムッとしていた。

俺は盛大に溜息を吐く。

面倒臭いな.....これ。


「じゃあ来週の水曜日はどうかしら?」


「.....あ、はい」


そして龍野さんはデスクに戻る。

すると横に皆野が立っていた。

俺は顔を引き攣らせて見る。

まさか忘れた訳では有りませんよね的なジト目をしている。


「.....小五郎くん。沙穂ちゃんの意見も聞きなさい」


「.....何で沙穂が出てくるんだ。お前.....」


「.....あの子だって貴方が好きなんだから。ね.....?」


「.....わ、分かった」


皆野の目からハイライトが消えて。

そして俺を笑顔で見てくる。

俺は.....またも盛大な溜息を吐いて。

そして課長に咳払いされたので仕事に戻った。

もうどうしろってんだ.....マジに。



「へぇ.....会社の人とデートですか.....へーぇ.....」


「.....あの、マジに怖いんですけど.....」


「.....別に。どうも思いませんけど。そんなに胸の大きな人が好きですか?へぇ.....」


家に帰って沙穂に言うと。

そんな感じになった。

俺は.....ハァと息を吐きながら.....頭に手を添える。


沙穂は俺に対してジト目を向けていた。

そう.....何と言うか。

皆野そっくりに。


「.....別に良いですけど。その人もライバルって事ですね」


「.....いや、からかっているだけだと思うぞ」


「.....どうだか。ふーんだ」


「.....沙穂。機嫌直してくれ」


直りません.....馬鹿。

と俺を嫉妬の眼差しで見てくる沙穂。

そうしていると、あ。そう言えば、と携帯(俺の携帯)を見せてくる。

そして.....書かれている文章を差し出してきた。


「これはどういう事ですか?」


「.....?.....小五郎くんとキスしたんだ。私。だからその事も謝っておくね.....え.....」


「.....あはは。謝ってはいますが皆野さんとキスしたんですか?小五郎さん」


「.....」


そんなに仲良くなったのかコイツら。

ってか、皆野!!!!!

火に油を注ぐな!!!!!

思いながら居ると.....沙穂が赤面した。

そして俺を見てくる。


「.....じゃあ私には何も無いんですか?」


「.....何も無いってのはどういう意味だ」


「.....皆野さんにはして、私にはキスもハグも無しですか?私、こう見えても16歳なんですけど。結婚出来ますよ」


「あのな。俺は未成年とキスするつもりは無い」


そんな事は絶対に駄目だ。

と思っていると沙穂が、うーん。そうですか。

それだったら仕方が無いですね。

と言っていて俺が?を浮かべていると俺の頬に沙穂が触れた。


「.....私からキスします」


「.....は?.....アホか!無理だ!」


「.....嫌ですか?だったら私、小五郎さんの事、嫌いになります」


「.....お前.....」


この女子高生!

思いながら俺は沙穂を見る。

沙穂は、待っている、という感じの顔をしていた。

俺は.....そんな沙穂に赤面しながら.....そのままキスをする。


「.....」


「.....」


そして唇を離すと。

沙穂は笑顔を浮かべた。

それから、えへへ、と唇に触れる。

そして俺を見てきた。


「.....私、小五郎さんのお嫁さんを目指します」


「.....あのな.....」


「.....大好きです。小五郎さん」


ハニカミ笑いを浮かべる、沙穂。

そして俺はこの短期間に二人の女性とキスを交わした。

勘弁してくれよマジに。

俺は思いながら盛大に.....溜息を吐いた。

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