第5章 大人

第10話 君だけが大人じゃ無いんだよ

「小五郎くん」


「.....何だ。皆野」


「.....後で話が有るから。屋上に来てね」


「.....?」


翌日になっての出勤。

会社に出勤してから仕事をしていると皆野にそう言われ。

俺は首を傾けていた。

とは言えど多分.....沙穂の事だろうけど。

思いながら.....俺は溜息を吐いていると.....横から声がした。


「どうしたの。長谷場」


「.....ああ。龍野さん」


俺に声を掛けて来たのは.....俺の上司だった。

龍野帝(タツノミカド)さん。

凄まじい名前だが30代くらいの女性だ。


顔立ちがやけに整っておりながらの薄化粧。

髪が長く、天然パーマが少し有り。

大人の女性のフレグランス。

そして.....身長も高く.....その。

失礼ながら胸がでかい。


俺は慌てて目を逸らしながら.....前のパソコンを見る。

そうしていると龍野さんは俺に向いてきた。


「悩みが有るなら聞くけど」


「.....無いっすよ。俺の悩みは皆野です」


「.....あはは。それは確かにね。皆野はたまに仕事を押し付けて来るからね」


「.....まあこなせるから良いんですけどね」


そんな会話をしていると皆野が手を合わせながら俺を見てきていた。

俺はそれを見ながら溜息を吐く。

そして龍野さんを見る。


「.....色々有るけど.....あの子はいい子だと思うよ。皆野」


「.....ですね」


「.....あ、そう言えば忘れてた。.....私、書類の手続きの件で来たんだけど.....」


「.....ですか」


そして龍野さんから書類を受け取る。

成る程な.....と思いながらパソコンに向く。

すると.....龍野さんが笑みを浮かべて俺を見る。

俺は?を浮かべて龍野さんを見る。


「.....しかしモテるんじゃ無い?そんな感じで真面目に仕事をしていると」


「.....モテないっすよ。ただ.....同じ事を繰り返しているだけです」


「.....そう?私は気になるけどな」


「.....へ?」


目を丸くしながら.....龍野さんを見る。

龍野さんはクスクスと怪しげに笑いながら俺に手を振った。

それから、じゃあね、とデスクに戻って行く。


俺は目をパチクリしながら.....見送った。

ミステリアス.....と思っていると横から抓られ。

俺は見開く。


「イッテェ!」


「.....何?胸の大きな女性が好きなの?小五郎くん」


「.....お前な.....。そういうんじゃ無い。って言うか職場だぞお前」


「.....ふーん。.....どうだか」


嫉妬すんなよな。

俺が好きって事は知ったけどよ。

そんなあからさまに敵視すんなよ.....。

思いながら.....盛大に溜息を吐く。

そして仕事に戻った。



「.....小五郎くん。沙穂ちゃんの事だけどね。.....私も協力させて」


「.....何でお前が協力すんだよ。要らねぇつったろ」


「.....駄目。.....小五郎くんが心配だから」


皆野に呼ばれたので屋上にそのまま向かったが。

そんな屋上でその様な会話をする俺達。

この会社の屋上は自由開放されていてオフィスビルが色々見える場所だが。

そんな場所で皆野と話す。


「私は.....貴方が好きだから」


「.....それを今言うなよ」


「.....だから私も協力する。断ってもやるから」


「.....あのな.....」


コイツな。

だんだんイラついてきた。

俺だけで十分だって言ってのに。

あくまで.....他人の皆野を巻き込む訳にはいかないんだから。

と思っていると.....皆野は予想外の言葉を発した。


「.....私、知っているんだよ。.....君が心底から大変な状態」


「.....は?」


「.....机の上にたまたま置いてあった借金の借用書を見たんだけど。.....何あれ?ローン返済が数百万円も有る.....」


「.....いや.....何をしてんだ。.....勝手に見るなよ。確かに大変だけど.....」


長く付き合っているから分かるよ。

君は.....消費者金融とかから借金とかする人じゃ無い。

なのに.....借金が有るのはおかしいよね。

考えたく無いけど.....借金を誰かに押し付けられたんじゃ無いの?

と皆野は察しよく俺に告げる。


「.....何で借金が有るの?」


「.....皆野。余計な事に首を突っ込むと火傷するぞ。関わるな」


「.....君は優しいよね。そうやって.....私を守る為に遠ざけようとする。でも.....」


皆野が一歩一歩ずつ俺に迫ってくる。

何をしてんだコイツ?

と思って警戒していると.....勢い良く口が塞がった。

塞がったってのは.....皆野が爪先立ちで俺の顔を持ってキスをしたから。

思いっきり見開いた。


「おま.....お前!!!!?」


「.....これね、ファーストキスだよ。.....これだけ好きって事。分かる?こうしないと君は分からないと思うから。.....だから遠ざけないで。私を。.....私は君の側に居たい。私だって沙穂ちゃんと違って大人なんだから」


「.....」


唇に手を添えつつそして.....赤面している皆野を見る。

それから.....溜息を吐いた。

コイツには本当に参るな.....。

思いながら.....皆野に向く。


「.....お前の察している通り、あの借金は俺の借金じゃ無い。.....より正確に言えば博打の借金だ。俺の親の、だ」


「.....そうなんだね」


「.....そして沙穂の件だが.....お前の協力。.....協力してくれるか」


「.....やっとそうやって言ってくれたね。うん。するよ。借金もね。軽くなる様にする。頑張る」


そして赤くなったまま笑顔を見せてくる皆野。

俺は盛大に溜息を吐きながら.....苦笑する。

それから皆野は俺の手を握ってきた。

コイツの好きってのはこんなに巨大なんだと。

改めて思い知らされた。

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