愚民ども
ラグランジュ金剛
第1話「権利の主張」
広い広い地球には、お金持ちの国もあれば、貧しい国もあります。でも、王様一人だけがお金持ちで、みんなが貧乏と言う国が一番多いみたいですね。
国民はいつも苦しめられています。いつの時代も幸せは訪れません。
……本当ですか?
ある、ちっぽけな国がありました。かつて、その国の王様はとても悪い人で、あらゆるものに重い税金をかけて国中からお金を集めると、無駄にお城を大きくしたり、使いもしない金銀財宝を買い集めたり、いやらしいことに複数の美しいお妃様を世界中から連れてきていました。
でも、その王様は突然お亡くなりになられ、代わりに弟君が国を治めることになりました。
弟は、兄とは違ってとても心の優しい人でした。ですから、みんな新しい王様のところに行って、お願いをしました。
「王様、今までの税金では生活が苦しく、暮らしていけません。せめて、今年は去年までの半分にしていただけませんか?」
王様は、常々税金を取りすぎていると考えていました。そして、民衆の言うことはもっともだと思い、お触れを出しました。
「今年の税金は今までの三割でよろしい」
民衆は手を叩いて大喜びしました。王様も、実にいいことをしたと満足げでした。
でも、民衆はまだ不満気でした。お金は残ったのですが、使う場所があまりにも少なかったのです。今までよりもお腹がいっぱいになりましたが、それ以上に財布がいっぱいになったのです。
やがて、みんなが集まって話し合い、また王様にお願いすることにしました。
「王様だけではなく、私達にも競馬やカジノを楽しませてください。同じ国の人間だから、いっしょに楽しみましょう」
王様は、常々一人だけで遊ぶのは心苦しいと思っていました。そして、民衆の言うことはもっともだと思い、お触れを出しました。
「誰でも、王様の遊戯施設で遊んでもよろしい」
民衆は手を叩いて大喜びしました。王様も、実にいいことをしたと満足げでした。
でも、民衆はまだ不満気でした。お城に出かけて遊んでいたのですが、遊びおわるとみすぼらしい家に戻らなければなりません。みんな、自分もお城で暮らしたいと思うようになりました。
やがて、みんなが集まって話し合い、また王様にお願いすることにしました。
「王様だけがお城に住んでいるのはおかしいです。私達もお城に住みたいです」
王様は、少しだけ首を傾げました。でも、常々自分だけがお城に住んでいるのはおかしいと思っていました。そこで、民衆の言うことももっともかと思い、お触れを出しました。
「お城に住みたい人は、お城に住んでもよろしい」
民衆は、我先にお城を取り囲み、少しでもいい部屋を取ろうと争いました。王様は心優しい人でしたので、自分の部屋も民衆に譲り渡して、自分は民衆が残した空き家に住むことにしました。
王様に呆れた家来や兄のお妃たちは自分たちの将来を憂えて、こっそりお城を出て行ってしまいました。
騎士団も、隣の国からスカウトされて、まとめて引っ越していきました。
王様の味方は国からいなくなってしまったのです。
そうこうしているうちに、税金も納めなくてはなりません。みんなは税金を納めるのが馬鹿らしくなりました。
やがて、みんなが集まって話し合い、王様に文句をいうことにしました。
「王様だけが働かずに税金で食べていくのはおかしい。我々にも同じようにする権利があるはずだ。まず、税金などと言うものを即刻廃止すべきである」
王様は、民衆の訴えに驚きました。でも、常々自分が働きもせずにごはんを食べるのはおかしいと思っていました。そこで、民衆の言うことももっともかと思い、お触れを出しました。
「税金は納めなくてもよろしい」
税金を納めなくて良くなったので、民衆は大喜びしました。みんな、これで遊び暮らせると思いました。
王様は、税金がもらえなくなったので、仕方なく自分も働くようになりました。
自分で田畑を耕す王様なんて、きっと自分だけだろうと思いながらも、こんなに民衆の気持ちを分かってあげられるのは自分だけだと、内心ほくそえんでいました。
国民みんながかつての王様のように遊び暮らし、お城で優雅に暮らす日々がしばらく続きました。
王様は、お城もお金もないので自分で働いています。
なんと、気が付いた時には、趣味で仕事をしている年寄り以外、真面目に働いているのは王様だけだったのでした。
しばらくすると、みんなで遊んでいるうちに食べ物が底を尽いてきました。みんな遊んでいたので、畑は荒れ放題。作物が取れなくなっていました。
やがて、みんなは考えました。王様は宝物を持っているはずだから、これを売って食べ物を買えばいい。
市民団体代表と書かれた、金色のバッチを付けた人が王様の家を訪ねて言いました。
「我々は食事にも困っている。今こそ宝物の倉を開けて、我々の生活を救わねばならない。何故なら、我々には人間らしい生活をする権利があるのだから」
王様は、税金を廃止したのに、何故生活に困るのだろうと不思議がりましたが、市民団体の代表が言うのだからと、宝物庫の鍵を渡しました。
民衆は大喜びしながら、宝の山を漁りました。そして、その宝を売ったお金で、また昔のように贅沢を始めました。
王様は、いよいよ財産の総てを失いましたが、心は誇りに満ちていました。
やがて、人々はおかしな事に気付きました。困難にぶつかるたびに、何故王様におうかがいを立てなくてはならないのだろうか。王様がいることがおかしいんじゃないだろうか。
市民団体の代表は、武器を持って王様の家に押し掛けました。そして、武器を王様に突きつけて言いました。
「今までおまえを王様と呼んできたが、人間は総て平等に生きる権利がある。おまえだけが王様でいるのは許されない」
野良仕事でボロボロになった服を着た王様は、市民団体の代表に呆れながら言いました。
「これ以上、私に何を望むのかね。私は王としての権威を総て民衆に与えた。まだ不服かね?もし、王様と呼ばれたいのなら、みんな王様を名乗ればいい」
市民団体の代表がお城に戻ってすぐ、この国は王様だらけになりました。でも、まだみんなは満足しませんでした。王様は王様らしくありたいと考えるようになりました。
たくさんの王様の使いは、王様だった男の家を訪れると言いました。
「王様に税金を納めなさい。王様には税金を取る権利がある」
王様だった男は、仕方なく持ち合わせの金を差し出しました。それははした金でしたが、今の男には精一杯でした。
しかし、王様の仲間入りをした新王族の代表は、あろうことか王様だった男を脅したのです。
「まだ隠しているはずだ」
王様だった男は、正直だったので本当にお金を持っていなかったのです。男は泣きながら謝りました。
この国には、たくさんの王様とたった一人の真面目な市民が暮らしています。真面目な市民とは、もちろん王様だった男の事です。
王様は市民から税金を取ろうとしますが、貧しい市民が払える金額など知れています。みんなで税金を分配すると、豆一粒が買えるか買えないかという小銭になってしまいました。
王様達は不満でした。王様になったのに、王様らしい生活ができない事が不思議でなりませんでした。
やがて、隣の国が荒れ果てたこの国に攻め込み、あっという間に占領してしまいました。
王様のほとんどは国境を越えて兵隊が入ってきたのを見るや、自分は王様ではないからと逃げ出しました。
残った王様達はお城で戦うことにしましたが、遊び暮らしていただけの王様が本職の兵隊相手に勝てるはずがありません。
城は焼け落ち、立てこもっていた王様の半分は死に、半分は捕らえられて牢に入れられました。
隣の国の王様は、王様だった男がいないことを不審に思い、国中を探しました。
王様だった男は、住んでいた家を戻ってきた市民に追い出され、乞食のような姿で森に隠れていたのでした。
囚われの身となった王様だった男は、新しい王様の前に出て言いました。
「私には、一体どんな権利があるんでしょうか」
王様は呆れて言いました。
「義務や責任を負わぬ愚か者に、権利など与えられるわけがなかろう!」
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