遠いあの子から貰った地球儀

雑賀草

第1話 思い出

 なあに、それ。姉に言われた。姉の目線の先にあったのは小さな地球儀。

「いや、忘れっちゃったけど、なんかずっととっておいてるから俺の大切なものかなって。」

他人事すぎると姉は笑った。

「捨てちゃえば? あんた地球儀とかそういう柄じゃないでしょ。」

地球儀の柄とは一体なんだと思ったが、姉の言いたいことはわかる。正直世界の情勢に興味もなければ地理にも興味がない。日本の外に出たいとも特には思わない。英語、話せないし。でもなぜか、捨てちゃいけない気がする。

「いやー、うーん。なんかもったいない。」

 すると途端に姉は怒り出した。

「お姉ちゃん何のために来たと思ってんの。あんたの部屋が汚いからでしょ。お母さんもお父さんも心配してた。」

こうなると手が付けられない。頼んでないと言おうものなら鬼と化す。

「いや、他のものは別に捨てていいからさ。これ、ほら、こうやってなんか、棒?から外せば、ボールとしても使えるし。ね。これだけは勘弁して。」

何だこの言い訳は、と自分でも思ったが言ってしまったものは仕方がないので姉の様子を見る。

 姉は意味がわからんという顔をしていたがすぐに調子を取り戻し、言った。

「じゃあその地球儀持ってどっか行ってて。片付けの邪魔だから。」

俺の部屋なんだけど…。そうは思ったが姉は世界一怖い女なので、いうことを聞くことにした。


 特に行くあてもない俺は近所の公園のベンチに座り、地球儀を見る。

「なんだよな、ボールとしても使えるって。アホか…。」

そう呟いた瞬間何かを思い出した。


 「えー、俺いらないよそんなの。見たことないものだし怪しい。」

「そんなことないよ、学校にもおいてあるよ。社会の授業で使ったじゃん。」

「あのでかいのとこのちっちゃいの一緒なの?」

「地球儀っていうんだよ。世界地図なの。先生の話聞いてないの?」

「地図がまん丸なの変じゃん。」

「変じゃないよ、地球は丸いんだもん。」

「どうでもいいよ。そんなのいらない。」

「なんで…。」

「俺家で社会しないもん。」

「あ、でも、ほら、軸から外せばボールとしても使えるんだよ。ほら! ね? もらって…。」

「わかったよ…。もらうよ…。」


 そうか、これ貰い物だったんだ。だから捨てられなかったんだ。でも誰から貰ったんだっけ。あれ小学校の時だよなあ。その子とは中学一緒だったんかな。かわいかった気もするけどどうにも思い出せない。気になる。何か忘れている気がするのだ。第一、この地球儀を貰った経緯も今の今まで忘れてたんだから。

 考え込んでいるとスマホが震えた。鬼────いや、姉からの「片付いたから帰ってこい」というメッセージだった。

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