四 敵が現れた!!
「おうおうおう。随分と見せ付けてくれるじゃねえか」
不意にそんな男の声がする。
「ひゃんっ」
ミーケが声上げた。
「なんだ? ミーケ?」
一郎は、エロエロタイムの事をすっかり忘れ、顔を上げる。
「ジャベリン~。ミーケわぁ~、ミーケわぁ~」
「くっくっくっく。やっぱり獣人は尻尾が弱点だよな。ほれほれ。感じるか? ええのんか?」
ミーケの声と男の声が交錯(こうさく)する。
「ミーケの声がおかしい。なんかエロい。それに、尻尾が感じる? ええのんか?」
一郎は言いつつ、エロパワーのお陰で鎧を初めて着用しているとは思えないスムーズな動きで立ち上がる。
「おっと。ナイト様が起きたか。だが、この獣人は俺がもらうぜ」
男が言う。
「お前、なんだ? いきなり出て来て馬鹿なのか?」
一郎は言って男を見る。
「そんな事言っていいのか? この獣人がどうなっても知らないぜ」
金色の長い髪の下にある軽薄そうな顔を歪めて男が笑う。
「いや。ごめん。そんなふうに言われても、全然状況が分からない。説明してくれ」
一郎は、男の身に着けている白色の鎧と、装備している宝石がいくつも付いている剣を見て、こいつ金持ってそうだな。と思う。
「俺はな。この辺りを根城して、仲の良さそうな男女のプレイヤーを狩るのが趣味のしがない男よ。お前達はその俺のターゲットって事だ。ちなみに。男はぼこぼこにして女は寝取るのが俺の流儀よ。ほーれほーれ」
男が言い終えると、ミーケの尻尾をにぎにぎする。
「あふぅ。ジャベリーン。ミーケわぁ。もう駄目かも~」
ミーケがエロい声を出す。
「なんてこった。こんな初っ端からハードな。なんでいきなりNTRなんだ」
一郎は歯を食いしばる。
「さあ。どうする? このまま逃げるか? それとも俺にぼこぼこにされるか?」
「待ってろミーケ。今助ける。うおおおおおおおお」
一郎は叫び、男に向かって行く。
「おそ。お前、動き遅過ぎじゃね?」
男が言い、一郎の足に足を引っかける。一郎は情けない声を上げながらその場に転がった。
「なんだお前。弱過ぎだな。装備は凄い強そうだけどな。まあいい。その装備は俺がもらってやろう。いや。その鎧はいらねえか。色が良くないもんな」
男が笑いながら一郎の頭を踏む。
「ジャベリン」
ミーケが声を上げる。
「いやー。いいねえ。こういうのが俺は好きなんだよ。こういう事がしたくってこのゲームをやってんだ。でもこのままだとつまんねえな。折角チート買ってんのに。今日は出番なしか」
「俺も、こういうのは嫌いじゃない。嫌いじゃないが、それは、エロゲー世界での話だ」
一郎は声を上げ、体を起こそうとする。
「無駄な抵抗すんな。ステータスは隠してるみたいで見えないが、お前のレベル、相当低いだろ。俺は、かなりこのゲームをやり込んでるからな。お前に勝ち目はねえよ。お前は黙って俺がこの獣人とあれやこれやをするのを聞いてろ」
男が一郎の頭を蹴る。たいした一撃ではなかったが、一郎はあっさりと気を失った。
「一郎。一郎。起きるのです」
「は? なんだ? 聞いた事のない声がする?」
一郎は閉じていた目を開ける。
「一郎。あなたは今、気絶しているのです。ここはあなたの意識の中です。今から、あなたにミーケがしなかった大事な話をします」
「ああ、はい。ええっと、誰? いや。ミーケが危ないんだった。早く起こしてくれ」
一郎の目の前には、西欧風の露出度の高い女神様というような装飾をしている服に身を包んでいる、色気むんむんの人妻風の女性が立っている。
「ミーケなら大丈夫ですよ。おかしな事にはならないように、この間だけは私が見張っていますから。私はこの世界の管理者をしているAIです。今時はこういう場所の管理は人ではなくAIがやっているんです。」
「へえーそうなんだ。それで?」
「それでですね。今回の事なんですけど、そもそも」
女神型管理者の話が凄く長いので要約してしまおう。
一郎が死んでしまったのはそもそもこのデリュ―ジョンというシステムの所為で、快楽をフィードバックする機能に不良があったから。
データとして電脳世界内に残ってしまった一郎にはバグが発生していて、管理者にしかない、この世界の事物を書き換える能力が制限付きだが備わっている。
このまま一郎の事をただの不具合としてデリートしてしまうのもかわいそうなので、この世界に残しておくけれど、どうせなら一郎の持つ力を強化して自由自在に使えるようにし、ボットと違う元人間の自我や人格のある一郎をこの世界の管理に使ってみたらいいんじゃない? となった。
それでミーケが一郎に会いに行き、今に至っている。
以上。要約お終い。
「いいですか。強化された事によりあなたの力にあった制限はなくなっています。なんでもできてしまいますからくれぐれも気を付けて使って下さいね。では、力の使い方を教えますね。アドミニミニコードと言ってから、どうしたいのかを言うのです。いいですか。例えば、アドミニミニコード。一郎。赤ちゃんになるのでちゅ」
「ばぶー?」
「まあー。かわいい。どうです? 凄いでしょう? ねえねえ。一郎。このままっていうのはどうです? 私、母親という存在に憧れているのです。お腹空いてまちゅかー? おっぱい飲みまちゅかー?」
「ばぶばぶばぶーん(飲みます。ぜひ飲ませて下さい)」
「ちょっと。ミーケは? ミーケの事、このまま放っておくの? 一郎、それでいいの? ねえ、それっておかしくない?」
「ば? ばぶぶ?(は? ミーケの声がする?)ばぶばぶばぶぶぶ(アドミニミニコード。元の俺に戻れ)」
くっそう。お母さん属性全開の女神型管理者と赤ちゃんプレイをするチャンスなのに。ミーケの奴、邪魔する気だな。このままではプレイに集中できん。と一郎は思った。
「えー。戻っちゃうんですか?」
「すいません。俺も赤ちゃんプレイはしたいのです。けれど、ミーケが、ミーケが邪魔をするのです」
「まあ。そんなにあの子の事を。そうですか。あの子は幸せ者です。そうそう言い忘れたのですけれども、あの子があなたに拾われたのは、本当は偶然なのです。あの時、あの子はとあるチーターに負けて、拗ねて仕事を放棄して逃亡していたのです。所謂、非行に走るっていう事でしょうか? けれども、あなたが拾ってくれた事であの子は立ち直る事ができたのです」
「は、はあ、そうなんですか」
ミーケの奴、なんで嘘なんて吐(つ)いたんだ? 一郎はそんな事を思いつつ返事をする。
「あの子の事をお願いしますね。では、またいずれどこかで会いましょう」
「あの、ここには俺の意思で戻る事はできないのですか?」
「そうですね。 それはちょっとできません。でも、なぜです?」
「いえ。赤ちゃんプレイの続きを」
「分かりました。では、戻れるようにしておきます。コードを使えば戻れますからね」
「マジすか!?」
赤ちゃんプレイできるんだ! と喜んでいると、目の前の女神型管理者の姿が歪む。
「行ってらっしゃーい」
「おいおい。気絶中に夢の中で赤ちゃんプレイか?」
「はっ」
男の声を聞き、目を覚ました一郎は、ミーケ達の所に意識が戻った事を知って酷く落ち込んだ。
「ジャベリン。お前、舐めてるだろ? 管理者とミーケは繋がってるんだぞ。全部知ってるんだからな」
ミーケが言う。
「ほれ。尻尾尻尾」
「あふぅん」
男が尻尾をにぎにぎするとミーケがエロい声を出す。
「なあ、お前、俺が気絶してる間、ミーケに手を出さないで俺が起きるのを待ってたのか?」
「しょうがねえだろ。俺は、女を取られて悔しがる男を見てないと興奮できない性質なんだ」
「そうか。それは良かった。お前のエロを追求するそういう姿勢、そういうの俺も分からないでもない」
「なんだ、お前、意外と理解あるじゃねえか」
「いや。俺の方はあくまでも、ゲームの中での話だ。まあ、ここもゲームの中だけど、こんなふうに本当に無理矢理にするのは絶対に駄目だ。頭と心が受け付けない」
「はっは~ん。お前、ただのへたれだな」
「そのへたれにお前はこれからやられるんだけどな」
「はい? 何言ってんだお前? 頭がおかしくなったのか?」
男が言い、一郎の頭をもう一度蹴ろうとする。
「アドミニミニコード。こいつを、幼女に。今までそういう要素はなかったし、抵抗もできなくなるだろうし」
一郎はぎらりと目を光らせつつ言った。
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