大学三年生
その人とは学園祭の少し前に出会った。
もう大学3年生にもなり、恋に関しては諦めていたが、その人に一目惚れした。本当に自分はチョロい人間だな、と思う。最初は推しだったが、学園祭で関わっていると一緒にいるのが楽しくて、ずっと隣にいたいと思うようになった。
何度かサークルのメンバーで食事へ行き、いろいろ話す機会があった。その中で俺は彼女の考え方や言動に惹かれた。彼女も恋愛のことで少し拗らせており、恋愛についての話題は特に盛り上がった。
しばらくしたら二人での食事へ誘った。食事からの帰り道、俺は思い切って告白した。前回の失敗を学ばず、一回目のデートでの告白であった。しかし、今回は前回と違って、友達にたくさん相談した上での告白。あまり失敗する気はしなかった。
告白した結果、遠回しに両想いだと告げられた。そう、初めての恋人ができたのだ! そう、あの失恋マスターの俺が! その時の喜びようはもう思い出せない。
何度かデートを重ね、夜には通話する。スイパラへ行き、カラオケへ行き、夕飯を食べ、家まで送る。少しだけ腕を組んだり、頭を撫でたり、抱きつかれたり。そんな甘々な日々を過ごしていた。
1度、大学構内で手を繋ごうとした時に、彼女が嫌がって、それをきっかけに不穏な空気にもなったが、すぐに仲直りした。その件以降、彼女は俺との熱量の差を気にしていた。しかし、俺は些細な問題だと、嫌なことは嫌だと言ってくれるだろうと思って態度を改めるようなことはしなかった。
気がつけばクリスマス目前。年末年始はお互い実家に帰るため、帰省前のデートで俺はブランケットをプレゼントした。彼女はブックカバーとボールペンをくれた。
帰省しても定期的にLINEでやり取りをして、電話もした。ただ、年末年始の辺りから彼女の対応が冷たいような、そっけないような、そんな感じがした。もちろん、その時は気のせいかと思って何とも思っていなかった。
帰省を終えての初デートのことは今でもハッキリと覚えている。二人きりで夕食を食べ、彼女の家の前まで来たところ。いつもなら、別れ際に彼女の方から抱きついてくるのだが、今回はそれをする素振りがなかった。その不安や、しばらく会えていなかった寂しさから俺は咄嗟に口を開いた。
「もっと一緒にいたい」
「すみません、明日バイトあるので」
彼女は間髪を入れずにそう答えた。
そうして俺は自宅へ帰る途中、いろいろな考えを巡らせた。俺が発した言葉に下心があると思われたのではないか、そういえば、最近対応が冷たい気がする。どうしてだろう、原因はなんだろう。いくら考えても答えは出なかった。
そんなこんなしていると、付き合う前から約束していた遊園地デートの日がやってきた。デート中、彼女のテンションは明らかに低かった。いつもと雰囲気ごと違うような気さえした。いや、これは勘違いだ、今日はそういう日なんだと自分に言い聞かせて園内を歩いた。でも、その日撮った写真に写る彼女の表情は暗く、無であった。そのことが気になり、吐きそうなほどの不安に襲われた。
「ねぇ、今日ちょっとテンション低くない?」
馬鹿な俺は彼女にそう聞いた。
「いや、そんなことはないですよ。というか、そんなこと聞かない方がいいですよ」
馬鹿な俺でもこの言葉でだいたい察しがついた。この先が長くないことを。
無事帰宅し、彼女を家まで送るが、彼女は俺のバスの時間ばかりを心配する。今思えば、家まで送らなくていいよ、という意味だったのだろう。もちろん、俺に抱きついてくることもなかった。
この先が長くないことを察したからには何かしら対策をしようと考えた。結果、彼女が気にしている熱量の差をどうにかして合わせることにした。とはいえ、どうしたらいいのか分からなかったので、とりあえず、連絡の頻度をかなり落とした。
――その数日後、我慢できずに連絡を送ったところ、その返信ついでにフラれた。
フラれたその日に電話で少し話す機会を設けてもらった。そして別れようと思った理由を聞いた。
結論から言うと、帰省前に電話した際に俺が発した言葉が大きな要因となっていた。
「先輩って自分のこと好きですよね」
「(省略)他人を好きだと言える自分が好きなのかなーって」
そんな感じの会話であった。その時の俺は自分の失言に気が付きもしなかった。
彼女としては「どうして彼は私に尽くしてくれるのだろう」という疑問を持っていたらしく、俺のこの発言で自分が「恋愛の道具」として扱われているように感じたらしい。それ以前からあった熱量の差もあり、その発言がなくとも長くは続かなかったと思う、と言われた。
電話中、悔しさで終始泣きそうであった。冷静ではなかった。覚えていることも少ない。ただ、その時はどうすれば復縁できるか、ということしか考えておらず、復縁について色々聞いていた。それは駄々をこねる糞ガキそのものであったことに間違いない。
「私のことが好きなら、私のために別れた方がいいんじゃないですか?」
そこに飛んできた言葉はとても鋭利であった。
「私は都合のいい依存先じゃないんです」
もう返す言葉もなかった。
あぁ、この電話を切ったら、もう全てが終わるのか。なんて考えていた。
「私以外にも良い人はいっぱいいますから」
励まされ、でもされすらも受け入れられず、ずるずる引きずり、結構長い間電話した。
今思い返せば、その電話中、1度でも相手のことを考えただろうか。ずっと自分のことを考えていたと思う。
こうして1ヶ月と2週間くらいのリア充生活は終わった。
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