失恋

Re:over

小学校一年生


 始まり、というには純粋すぎる。一目惚れではないと思いたい。そんな話だ。


 小学校に入学した次の日、帰りの会をしている時だった。


「ねぇ、一緒に帰らない?」


 右斜め後ろの女の子に話しかけた。通路の向こうにいるその女の子はポニーテールで、急に話しかける俺に対して笑顔で対応してくれた。……その前に、小学校一年生がよくもまぁ、ナンパ地味たことを言う。そもそも、どうして俺はその子に声をかけたのかあまり覚えていない。


 うろ覚えの考えを言うのならば、一目惚れである。しかし、初めに記述した通り、これを一目惚れだと思いたくはない。


「一緒に帰ってもいいけど、今日はお母さんが迎えに来てるから」


「あ、そうなんだ。じゃあ明日とかは?」


「うーん、わかんない」


「家の方向は? 幼稚園のところの門から行くの? それとも反対の門?」


「幼稚園のところからだよ」


 この後の会話は覚えていない。どうやって会話が途切れたのかも思い出せない。ただ、その子の母親がミルク(?)の匂いがするそうだ。


 どうして思い出せないかというと、その子に対する興味が失せたからだ。小学校一年生だというのに"運命"を信じていたのか、家の方角が違うということが決定的となり、それ以降に会話した記憶が一切ない。どうでもいい話、高校で一方的な再会をした。


 もしも、これが一目惚れだと言うのであれば、俺は運命を信じ(信じたいとは思っているが)、ちょっとした食い違いで飽きてしまう浮気性の彼女欲しがり野郎ではないか。


 それに、こんなガキの言う好きなんて友達になりたい、仲良くなりたい、そういうものだろう。少なくとも、今の俺はこれが恋であることを認めない。


 ……で、どこが失恋だよ。って思った奴らは失恋経験が浅いな。嘲笑するに値する。


 俺は、この興味が失せたという感覚の根底に存在する感情をしっかりと覚えている。この人とは仲良くなっても簡単に遊べない。いわゆる、戦略的撤退という名の失恋!


 そうだ。遠距離恋愛になるから別れてしまうカップルに等しい。これを失恋と言わず何を失恋というか。そもそも、この失恋ポエムbotであり、恋愛マスター(おそらくは失恋マスター)でもあるこの俺が! そう思っているのだから、そうに違いない。


 小学校一年生のくせに生意気な野郎だなと思ってバカにしてください。でも、当時は一緒に帰るという行為が特別な行為だと思っていたんです。そうですよ、この時からすでにロマンチストだったんですよ。




*二年生へ続く

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