人間出荷工場のロボットレギュレーションは鬼むずい

ちびまるフォイ

求められる人間のかたち

人間生産工場のロボットは出荷先へとやってきた。


「本日の人間を納品しにきました」


「ごくろうさま。うーーん、これは……」


「なにか問題がありましたか?」


「君の収めた人間だがね、能力がバラバラで不均一なんだよ。

 これじゃうちの社会で使いにくいな」


「なかには優秀な人間もいますヨ」


「そうかもしれない。でもね、優秀な人と無能な人とごった煮で渡されるよりは

 みんな同じ能力である人間のほうがこっちも扱いやすいんだよ。

 みんな同じだけの指導をすることができるからね」


「そういうものですか」

「人間だからね」


ロボットは工場に戻ると生産ラインを見直した。


人間工場では能力判定用にテストを行っている。

成績上位者であれば、この工場から解放されると伝えている。

実際には単に納品されるだけ。


「これからは、人間たちの成績で一番中央に近い人ほど優秀なものとしマス」


養殖されている人間たちは驚いていたが喜んだ人も多かった。

優れた成績を収めなくても、平均値に近ければ解放されるチャンスがある。


ロボットも平均値に近い人間だけを抜粋すれば、

おおよそみな同じような能力の人間を納品できると考えた。


人間ができると、ふたたび出荷先へとやってきた。


「こんにちは。人間を持ってきました」


「おおありがとう。どれどれ」


「どうですか? 今度はみんな統一感が取れているでしょう?」


「むむ、たしかに。どの人間も同じだけの能力で均一じゃないか」


「よかったデス」


ロボットの作戦はうまくいった。

この調子でしばらく人間の安定納品ができていたが、ある日のこと。


「人間を出荷に来ました」


「ありがとう。むむ、これは……ちょっとダメだな」


「ダメ? どうしてですか? どの人間も同程度の能力でまとまっているでしょう?」


「ああそうだな。ただ、どれも低い能力じゃないか。これじゃ使えないよ」


「ソンナ……」


生産工場に戻ったロボットは平均値を確かめた。

すると、テストを実施するたびに平均値は低く低く下がっていた。


これまでは必死に努力していた上位層の人間たちが、

平均値を取るために努力しなくなってしまった。

それで平均値はどんどん低い水準へと下がっていた。


ある程度の統一感は必要だが、劣悪な人間だらけでは話にならない。


ロボットは作戦を変えた。


「みなさん、これからは方針を変えます。

 頭脳テストの1/3以下の人間はその場で処分します」


今度は喜ぶことなく、人間たちは顔を凍りつかせた。

平均値を取れば解放されるが、必要以上に低い成績の場合は処分される。


平均値近くを狙うことはいつでもできるが、処分されたらそれまでになる。

お尻に火がついたように人間たちは努力をしはじめた。


やがて平均値近くの人間をまとめると、ロボットはまた出荷先へ向かった。


「人間を持ってきました」


「ごくろうさん。おや、今度はちゃんと人間品質戻っているじゃないか。

 それに統一感も取れている。いい仕事をしたね」


「アリガトウゴザイマス」


ロボットは人間に褒められるのが何よりも嬉しかった。

その後も、平均値の人間を規定人数ぶん機械的に収穫しては出荷していった。


ある日のこと、出荷先から怒りの連絡が届いた。


「おい! なんてことをしてくれたんだ!」


「ワタシがなにかしましたか?」


「取引先に送った人間がとんでもないできそこないだったんだ!

 人間品質を偽るなんて、産地偽装よりもずっと信用を失くすことだぞ!」


「ワタシは偽ったつもりハ……」


「実際そうだったんだよ。お前が納品した人間のうちのいくつかが

 記載されていた平均値よりもずっと低い能力だったんだ!」


人間生産工場にロボットは急いで戻った。

人間テストの成績を見てみると、ここ最近の成績におかしな点があった。


「全員が同じ点数になっている……!」


平均値をとった人間は解放される。

平均値以下、1/3未満の成績者は処分される。


それにより、人間たちは協力して全員が同じ点数になるように細工をしていた。

みんなが同じ成績になれば全員が平均値となる。全員がハッピー。


「これじゃ、誰が平均値以下かどうかわからない……困りまシタ」


出荷してから「実は平均以下でした」となっては困る。

対応を考えたロボットはすべての人間にチップを埋め込んだ。


チップから脳波を測定し、テストの成績を共通化しようとするカンニングクラスターを発見して処分した。


「みなさん、同じ値になるように細工をすることはもう出来ません。

 自分自身の力でちゃんと頑張ってください」


処分の結果、ふたたびテストの成績にはバラつきが生まれるようになった。

ロボットは安心して出荷先へと向かった。


「人間を持ってきました」


「お疲れさん。今度は大丈夫そうか?」


「はい、もう大丈夫です。どの人間も同じ能力で均一デス」


「そりゃよかった。こないだの失敗の原因はなんだったんだい?」


ロボットはこれまでの顛末を話した。

一人の人間が呼びかけて同じ点数を取るように仕向けたこと。

そして脳波解析でそいつを特定できたこと。


「デモ、もう問題ありません。原因の人間は処分しましたから」


すると、出荷先の人間は驚いていた。



「なんてもったいないことを!!

 機械の監視の目を盗んで他の人間を協力させることができる

 優秀な人間なんてそう手に入らないのに!!」

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