チャーハン

エリー.ファー

チャーハン

 母親はよくチャーハンを作ってくれた。

 その理由は、余り食事に手間をかけたくなかったから、というのは後々分かったことではあるのだが。

 僕は母親の作るチャーハンが好きだった。

 よくべちゃべちゃのチャーハンというのは、友達の家に遊びに行ったときに出されることもあったのだけれど、僕の母親の作るチャーハンはパラパラだった。

 何か一工夫をしているのだろうし、それは間違いないのだが、それがどうにも分からないのだ。

 母親の真似をして隠れてチャーハンを作ったこともあったのだけれど、結局パラパラにはならなかった。どうにかしてパラパラにはできないだろうかと特に工夫もできないくせに悩んだこともあった。

 それから少しして、僕の中のチャーハン熱は冷めていった。

 別にチャーハンが嫌いになったわけではないから食卓に並べば三杯はおかわりするほど食べてはいたのだが、作ろうとは思わなくなっいていった。

 実際、僕が作らなくともチャーハンは食べることができたわけだし。

 それにここが母親の凄いところだと思うのだが。

 チャーハンを食べたいとふと思った日に、ちゃんとチャーハンで出てくるのである。

 母親は明らかに僕の思考を読んでいるのだ。親子の関係性というものをこれほどまでに意識することは他になかった。僕は見守られていて、心配されていて、しかもどことなく支配されているのではないか、そんな気持ちになったのは母親のチャーハンのせいであると言っても過言ではない。

 チャーハンについて母親に質問したことがある。

 美味しいチャーハンを作る秘訣などではない。

 チャーハンの作り方をどこで覚えたのか、ということだ。

 僕は別に頭も悪くないし、それなりに推測をたてて話をするようにしている。今回も、母親の母親、つまりは祖母が作っている所を見て、真似たというような返答が来ると思っていた。

 母親は。

 お父さんから教えてもらった。

 そう言った。

 母親の夫。

 僕の父。

 つまりは。

 お父さんであり。

 そして。

 彼は。

 政治家であった。

 そんな彼は。

 僕が生まれる前に亡くなった。

 殺されたのだ。

 別に何か陰謀があって、それに巻き込まれたということではない。

 彼は人種差別の撤廃に向けて運動を起こし、それを法案として形にして国の機構の中に入れ込もうとしていた。

 死が訪れたのは過剰に反応した民衆たちが集まって彼を取り囲んだためだ。

 取り囲まれたその中で彼の身に何が起きたのかはよく分からない。もちろん、僕が生まれていないというのが主だった理由だが、殴る蹴るの暴力を受けたらしい。

 銃や剣などではない。

 死ににくい方法で、間違いなく死を迎えさせられた。

 苦しかったことと思う。

 悲しかったことと思う。

 その後、彼の意思を継いだ若い政治家が同じように人種差別撤廃に向けて活動し、法律として人種差別を非難し、かつそれに準じた行動、発言があった場合は罪として定義するようになった。行動や発言の真意などもあるため、最初は行き過ぎた法律なのではないかとも思われたが、実際に運用してみると全てのものに対してこの法律が機能するという訳でもなく、そこはケースバイケースで大きな問題なくスムーズに活用された。

 別に、人種差別がなくなったわけではない。

 けれど。

 それによって命を落とすような人々が明らかに減ったこともまた事実である。

 僕はチャーハンを食べる。

 彼が作ったであろうチャーハンの味を、母親を通して感じている。

 母親は、お父さんの作ったチャーハンの方が美味しいと言う。

 僕はそれを少し疑いながらも、お父さんが作っていたチャーハンの味を想像する。

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