第2話「最弱YouTuber」
私は最弱だ
まず金がない。
いや、ないくらいならいい。頭にマイナスを付けたものが山とある。
インドで発明された「ゼロ」という概念はすごい、というが「マイナス」という概念は誰が考えたのだろう。
昔の私が生活に苦しくなった時に「マイナス」を発見して一時しのぎの金を発掘しただから
私の人生では私が発見したのだろう。
次に、もう40歳を越えている。
越えているだけならまだいい。仕事の毎日で忙しすぎて時間がない。何度友人の誘いを無下にしただろう。
私を優しい、という人がいるがそれは違う。
ただのお人好しの馬鹿なのだ。
「僕はただ、合理的なだけです。争っても意味がない、人の良いところを見つめなければ虚しい。それだけです。
もしも僕が優しかったら、とっくに親孝行してます」
優しさ以外になんの必要とあろう
私が伝説の超YouTuberになり、この世界を変えてみせる。
『DIE天使ミカエル』
このYouTuberは人類最強と言われており過激な動画をあげ続け「BAN」と言われるアカウント停止される「追放(英語でban)」を
5度受け、そこから復活して登録者を増やし続けることから「不死身のディオ」の二つ名を持つ。仮面をつけて鍛え上げられた肉体を持つのが特徴。過激な動画は世界は共通言語と語り世界中に知る人がいるというトップYouTuberである。
「この人が最強・・・」
鍛え上げられた身体のせいか、たまたま見た動画が女をはべらせて足を組んでいたせいか、まるで自分がいじめられているようで、現実をみせつけられたようで惨めな気持ちになった。この気持ちはなんなのだ?
「俺もYouTuberになる!」
私も動画をあげてみた。お笑い芸人をしていた時代のギャグを次から次へとあげてみた。次から次へとあげてみても再生数は一桁だった。少しトークを入れてみて、字幕をスマホで入れてみた。
無料のアプリで動画に字幕を入れることも簡単にできる便利な時代。
実はYouTubeは黎明期である2008年に動画をあげたことがあり、その頃はまだ他にもいろんなサービスがありYouTubeにとりわけ今のような覇権がないころだった。あの頃自分が編集していたパソコンはとうに壊れて動かない。いったい自分がどうやっていたのか覚えていない。
置きっぱなしの動画が少しずつ登録者を集めていたので今、始めた時点でいきなり100のチャンネル登録があるのがまだ救い。まるで昔の自分に助けられたようだ。
「昔の自分に負けているかのようだ」
あの頃の私が動画の中で群衆に向けて演説している。コスプレして仮面を被りマイクを握って叫んでいる。
「この国は間違っている! 俺は、この国を変える!」
動画には赤く「著作権侵害」警告のマークが灯っていた。
チャンネル登録者数101
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