Diamond lily
矢野
忍耐
隣国、アヤメとの戦争を20年前に終え、平和が訪れたポポ国。首都ドントの1番大きな通りから奥へ入り、入り組んだ道を少し行くと、ツタに覆われた建物が見えてくる。大きな窓と白い壁。
ここはレストラン、"Diamond lily"。
「あらモクレン。ちょうどアマリリスとお昼にしようと思ってたところよ。一緒にどうかしら」
透明な声。白い髪。青い瞳の彼女は、俺の顔を見ながらふふっと微笑んだ。彼女ネリネは、このレストランのオーナー。弟のアマリリスとレストランの2階に住んでいる。
ネリネの白い髪が太陽の光に透けてキラキラと輝く。コンコンと階段を降りてくる足音と、低くくぐもった咳払いが聞こえた。
「やあモクレン。早いね」
ネリネと同じ白髪。青い瞳。大きな身体のアマリリスは俺の肩を抱くとそっと微笑んだ。この2人は戦争で両親を失ったあと、2人きりで生きてきた。アヤメ出身の人を差別する「アヤメ差別」にも耐えてきた。
ここポポ国にいるアヤメ出身の人はほとんど、戦争中にポポ軍に奴隷として連れて来られた人たちだ。
戦争の爪痕は、負けたアヤメ国にはもちろん、勝ったポポ国にも深く残ったままだ。
___兵士だった父が死んだのは、20年前になる。ポポの首都、ここドントで敵国の兵士に撃たれてあっさり死んだ。
傷ついちゃいない。傷つく暇もなかったんだ。
「ねえモクレン、そのピアスやっぱり外すべきだわ。心配なのよ」
アマリリスの作ったパスタを頬張っていると、机の反対側からネリネが手を伸ばし、俺の耳に触れようとした。
「アヤメ出身でもないあなたが、アヤメ差別に遭ったりしたら...最近物騒な事件も多いじゃない」
最近、ここドントで元ポポ軍の兵士たちがアヤメ出身の人たちを虐殺した事件が起きた。
きっとその事件のことをネリネは言っているんだろう。
俺の耳には、赤みがかった紫のピアスが付いている。そう。菖蒲色。
アヤメ国を象徴するものの一つに、この菖蒲色がある。気品のある色で、国民の心をそのまま写したような色。アヤメ国の軍服の帽子の星は、確か菖蒲色だった。戦時中のあの空気を寄せつけないようなあの綺麗な色。アヤメ軍を見るたび、俺はどこかで、懐かしく、そして離れがたいあの姿を探してしまっていた。
「モクレン...どうしてそこまで、その色のピアスにこだわるんだい。君は一度もはっきりと答えてくれたことはないね」
アマリリスもフォークを止めて俺の顔を見た。
青い4つの瞳が、俺を捕らえて離さない。
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