2020バレンタイン
保健室はチョコの香り
今日は二月十四日のバレンタイン!
ニャアは手作りのチョコを片手に、保健室のドアをコンコンと叩く。
「失礼しますにゃ!」
意気揚々とドアをスライドした瞬間、甘いチョコレートの香りが鼻をくすぐる。
「やァ、まおサン。いらっしゃァい」
いつも通り、長椅子に寝そべるヒサメが声を掛けてきた。
「こんにちは、マオさん。ちょうど良いところに」
そして水道のところにいたアール先輩も、ニャアの姿を見て顔を
「シナモンはお得意ですか?」
「全然いけますにゃ」
「それは良かったです」
お掛けになって下さい。と言われ、よく分からにゃいままニャアはローテーブルを挟んだヒサメの向かいに座る。
何かにゃ〜とソワソワしにゃがら待つ事数分。両手にマグカップをそれぞれ持った先輩がやってきた。
「お待たせ致しました。ヒサメ先生にはこちら、焼酎入りホットチョコレート。マオさんにはこちら、シナモン入りホットチョコレートを用意しました」
コトリと軽やかな音を鳴らして、ニャア達の目の前にそれぞれのカップが置かれる。
「えっ、コレどうしたんですかにゃ!?」
「先程ヒサメ先生にどうしてもと頼まれまして……」
呆れ顔のアール先輩は、チラリとヒサメを見て「わざわざご自身で材料まで用意していたのですよ?」と、困ったように笑った。
「あははッ、ばれんたいんだからネェ」
「チョコレートが欲しいのでしたら、事前に言ってくだされば——」
抗議する先輩の声をBGMに、ニャアはそっとカップに口をつける。
「にゃっ!」
人肌程度に冷まされたホットチョコレートが口内に広がり、スパイシーなシニャモンの香りがふわりと駆け抜けた。サラサラとした口当たりは飲みやすくて、甘過ぎにゃいから飽きにくい。
この計算された完璧にゃ味!
「美味しいっ! シニャモンがちょうど良いアクセントですにゃ!」
「ふふ、お粗末様です」
口元に手を当てて上品にアール先輩は笑った。
くっ、にゃんたる女子力……
ニャアは自分の溶かして固めただけのチョコレートを思って、頭を抱えたくにゃった。
完敗にゃ……この後にニャアのチョコを出すとか、ハードル高過ぎてワロえにゃい! もうチョコを渡すのは諦めるにゃ!
そう決意した矢先——
「それでェ、まおサンのちょこれぇとはァ?」
「にゃ!?」
見透かしたようにヒサメがチョコを催促してきた。
「い、いやニャアは……」
「持ってきてないはずないよネェ?」
「そうにゃんですけど!」
催促されたらされたで出しづらいんだにゃ!
あ、いやでもこのまま帰ってらただチョコをゆすりに来た人みたいににゃっちゃう……のか?
とかとか考えちゃった結果、ニャアはおずおずと二人にラッピングしたチョコレートを差し出すことにした。
「ハッピーバレンタインにゃ……」
湯煎して固めただけのショボいやつだけど。
「あははッ! 俺は
——まおサンだから良いヨォ。
特別とでも言いたげにゃそのセリフに、思わず面食らう。
「自分からすがっておいて何を仰るのですか!」
「だって事実だしィ? りっぷさぁびすだヨォ」
危うくトキメキかけたニャアの心は、ヒサメの一言で我に帰った。危にゃい危にゃい。
やっぱりヒサメはヒサメだにゃ。
色んにゃ意味で安心したニャアは、ヒサメにチョコを投げつけて、アール先輩には手渡した。
「チョコレートありがとうございます。一手間加えたところに、マオさんの気持ちを感じますよ」
スマートにゃフォローの言葉と、いつも以上に輝いて見える先輩の笑顔が眩しい。
「どういたしましてにゃ」
胸を張れるようにゃチョコじゃにゃかったけど、それでも手渡してしまえば気持ちはいくらか楽ににゃった。
絶対クラスで沢山貰っているアール先輩と、シスコン野郎に受け取ってもらえるか不安はあったのだ。
……ま、義理チョコにゃんだけどね!
「まおサン〜」
「にゃ?」
不意に呼ばれてヒサメの方に顔を向けた瞬間、口の中にチョコレートを押し込まれる。
湯煎して固め直しただけの、ニャアがあげたチョコの味。
「ソレ俺からのちょこネェ」
「ヒサメ先生!」
見れば、いつの間にラッピングを外したのだろう。
ヒサメは残りのチョコを頬張っていた。
「俺が貰ったからァ、もう俺のちょこだヨォ〜」
無作法を叱るアール先輩に対し、ヒサメはへらへらと言い訳をする。チョコレートの香りに包まれても、保健室は賑やかで楽しい場所にゃ。
口論を始めた二人を眺めにゃがら、ヒサメに入れられたチョコを堪能する。
食べ慣れた安物のチョコだけど、その味も悪くにゃいにゃと思った。
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