母の日

夢美瑠瑠

母の日

        掌編小説・『母の日』


 仔猫のミウは、明日の母の日に、お母さんにプレゼントをしたいと思いました。お母さんはもう長い事病気で、伏せっていました。


 カマタというあごひげを伸ばした眼鏡のお医者さんが言うには、治る見込みは五分五分で、何よりも栄養を取るのが大事で、「しぜんちゆりょく」というものを高めないといけないということでした。


 ミウのうちは貧乏なので、なかなか栄養のいいものは食べられなくて、メザシと味噌汁をかけたご飯とか、湿気(しけ)たおかかとか、サンマの骨だけとか貧乏な飼い主の更にそのおこぼれだけなので、お母さんはやせ細って、病気もなかなか治らないのでした。


 ミウは、鶏の卵が栄養があって、病気にいいことを知っていました。家のすぐ近くには、鶏を飼っているうちがあって、そこにはいつも生みたてのほかほかの卵がたくさんあるのをミウはよく見ていました。


(少しくらいならただでもらってもかまわないんじゃないかな?)

 そう思って、ミウは網の破れ目から卵のある鶏舎の中に忍び込みました。

 鶏は眠っていて、今日の朝に産んだらしい卵が2つ藁の上に白く光っていました。

 これでお母さんへのプレゼントが手に入る、そう思ってドキドキしながら卵に近づいて行って、ひとつ胸に抱え込みました。落とさないようにそろそろ帰っていこうとすると、「こらああ!お待ち!」とメンドリの声が後ろからしました。

 「この泥棒猫!せっかく生んだ卵をどうするつもりだ!見逃してやるから置いていきな!」翼をはばたかせつつ、けたたましい声でメンドリは喚きました。


 見つかっては仕方がない。泥棒が悪い事だというのも知っていました。

 「ご、ごめんなさい」ミウはしゅんとして、卵をもとに戻そうとしました。


 その時でした。


 「シャアアアア!!!」一匹の大きな青大将が、網の破れ目から侵入してきたらしく、ミウと鶏のほうに鎌首をもたげて襲い掛かってきたのです。

 どうやら青大将もお目当ては卵のようでした。

 鶏は驚いてギャアギャア騒ぎます。

 ミウも怪物のような気味の悪い蛇を見て驚きましたが、そこは先祖にはライオンやトラの血が流れている誇り高い猫の一族です。いざ本当に危険な場面に直面すると本能的に全身に力が漲(みなぎ)って、目はらんらんと輝いて、鋭い牙と爪が、野獣の秘められた本来の力を発揮するのです。


 「フー!!!ギャオー!!!」


 ミウは青大将にとびついて、目のあたりに鋭い一撃をかましました。

 

 「ギギギギギ💦」


 ひるんだ青大将に、ミウはさらに二撃、三撃、と追い打ちをかけました。

 さらに、これでもか、とばかりに頭にがぶり、と噛みつきました。

 青大将はもんどりうって背後にくずれおちて、しばらくのたうちました。

 それから、これはかなわん、とばかりにさすがの大きな青大将もしゅるしゅる踵を返して逃げていきました。



 (ふーっ)

 もう大丈夫、ミウはほっとしましたが、我に返ると自分の秘められた強さにちょっと驚くような感じがしました。

 仔猫だって虎の種族です。本気で怒れば蛇なんかは追い払えるんだ。

 猫の、生やしている立派な髭は、決して伊達ではないのです。


 「ありがとう、勇敢な仔猫ちゃん。なんてあんたは強い子だろう」

 鶏が嬉しそうに、ミウを褒めました。

 「卵が欲しいんだったら、お礼にあげるよ。何?お母さんが病気?それだったら毎日取りにおいで。なあに、卵なんていくらでも産めるんだから。」

 そう言って、鶏はケラケラ笑いました。

… …


 こうしてミウはお母さんに母の日のプレゼントを自分の勇敢さで勝ち取って、そうしてたくさんの卵をもらう約束も取り付けたのです。


 きっとお母さんの病気もだんだんによくなっていくことでしょう…


<終>



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母の日 夢美瑠瑠 @joeyasushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ