今、星空をつかむ

雨世界

1 ……ありがとう、星。私、あなたにそれしか言えない。

 今、星空をつかむ


 プロローグ


 山田海 ……ありがとう、星。私、あなたにそれだけしか言えない。


 本田星 ……そんなこと言わないでよ、海。私たち、友達じゃん。


 本編


 君のこと、……大好きだよ。


「悩みごとがあるなら、私に相談してよ。星。私たち、友達でしょ?」

 にっこりと笑って、本田星の隣で山田海は言った。


 星はめがねの奥から、そんな憧れの人の笑顔を見て、またいつものように泣きそうになってしまった。思わず、ずっと我慢していた涙を、安心して、その目からこぼしてしまいそうになったのだ。その大きな瞳の中にある透明な(まるで宇宙のような)涙をハンカチで拭っているとき、風が二人の間に吹いた。その風が星の幼さの象徴である長いツインテールの髪を揺らした。


「……うん。ありがとう。海。本当にいつもありがとう」とにっこりと笑って(やっぱり、ちょっとだけ泣いちゃって、涙声で)星は言った。


 その笑顔はずっと星が憧れて、そして今までの人生の中で、何度もなんども、星を助けてくれた(星がずっと憧れている)笑顔だった。(その代わり、海の前では、星は泣いてばかりいた。海に甘えっぱなしだったのだ)


 そんな自分を本当にきらきらと光る瞳で見つめている親友の星の顔を見て、海は思う。


 ねえ、星。……私だって、本当はすごく泣き虫なんだよ。ほら、見て、星。私の涙で、世界がこんなになっちゃった。みんな、水の中に沈んじゃったんだよ? どう? すごいでしょ? もうさ、こんなの伝説だよ。洪水伝説。世界中にあるでしょ? あの『世界が終わってしまう』っていうやつ。きっとあれだよ。私の涙はきっと、それなんだよ。星。ね、そうだよね。


「……海? どうかしたの?」

 めがねの奥できょとんとした顔をしている星が言う。

「え? あ、ううん。なんでもない。なんでもないよ」海はにっこりと笑って、星に言った。(危ない、危ない。ぼんやりするなんて、私らしくないよ。大丈夫? 私。もっと、しっかりして)

 二人がそんな話をしていると、二人のいる駅のホームに電車がやってきた。

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