第6話 話し合いましょ?
エステルの目がどす黒く染まってしまった。
「ま、まあまあ。そんなに落ち込まなくても!! あ! てか向こうの世界ではあなたが私になってたってことでしょ? ちゃんと学校行ってる!?」
エステルは少し赤い目を取り戻して自信ありげに言った。
「心配には及ばぬ。わしに逆らってきた者は皆ねじ伏せた。全く、あの鈴木とかいう男、無礼極まりなかったぞ! わしが元の世界に帰るためだと言っておるのに椅子に座らせようとしてくるのだ。何なのだ奴は」
(何なのだと言われましても‥‥化学の先生ですね‥‥おわった)
「なんてことしてくれてるのよ〜!別に元々優等生ではなかったけど〜!絶対頭がおかしくなったと思われたじゃないー!!」
「なにを!! わしに文句があるのか!! それならおぬしもだろう! 私の体で失態をおかして! なんでわしはおぬしなんかと体が入れ替わったのじゃ!」
私とエステルはお互いにつかみかかって文句を言い合った。エステルも、クールな性格だとは聞いていたが今は取り乱しているのかそんな様子は感じられない。
ひとしきり騒ぎ合っていたら2人とも疲れて、黙り込んでしまった。
「まあ、そんなことより‥‥ここはどこなの? 私は夜になって眠って、気づいたらここにいたんだけど」
「ほぉ、おぬしもか。わしも当てもなく歩いていたら眠気が襲ってきて、川にかかる無駄に大きい橋の下で寝たぞ。全く、わしがあんなところで寝るなんて」
「私の両親ちょー心配してない!?」
思っていた以上に私の体は大変なことになっているようだ。一応女子高校生なのだが。‥‥ゾッとする。
「ということは、私達はお互いに眠りに落ちたらここに来たということ・・。しかし昨日も眠ったけれどここには今日初めて来た。ランダムで来るのかな」
「時間の進み具合は同じなのじゃな。わしもあの世界に来てから2日経ったぞ。しかしまずはこの訳の分からない空間から抜け出せるかどうかが問題じゃろう」
2人とも黙り込んでしまった。自分たちにはとても太刀打ちできないような大きな何かに振り回されている気分だ。
「まあ、いつここから出られるのか、出たとしてどちらの世界に帰されるのか、わからないけどさ!この夢みたいな状況から目覚めたらまたお互いさっきの異世界に帰されるかもしれないし‥。自分の世界について教え合おうよ! そうした方があなたも少しはマシでしょ?」
エステルは目を閉じて少し考えた後、軽くため息をついて言った。
「人間のくせに生意気なことを言う。まあ悪い提案ではない、乗ってやろう。全く、わしが誰か分かっておるくせに、図太い神経をしておる」
「へへへ、それゼオにも同じことを言われたなあ」
「おぬし! まずはその、ゼ、ゼオなどと呼び捨てで呼ぶでない! わしの姿でそう呼んでいると思うと‥‥身震いがする!」
「うっ、わかったわかった、善処しますよー」
それから私たちは互いの世界でどう過ごしていくべきか伝え合った。私からは、とりあえず一度家に帰ること、両親の言うことには逆らわないこと、必ず学校に行くことなどなど必要最低限のことを伝えた。
多少大事にはなるかもしれないが、記憶を失って混乱していたと両親に伝えるよう言った。そうしなければ今、必要な情報全てをエステルに教えることもかなわないからだ。家の場所だけは確実に教えておいた。
「ふむ、人間も魔族とあまり変わらぬ生活をしておるのだな。魔族学校に通えと言うようなものか。安心しろ、わしは魔族学校を主席で卒業しておる。特に人間殲滅科目、魔族剣術は向かうところ敵無しじゃった」
「へ~あっちにも学校があるんだ~。主席なら安心ね! ん? あれ、なんか変なワードが聞こえた? 気がする? いや気のせいね!!」
ちなみにエステルからは、ゼオライトの命令には逆らわないこと、騎士として恥のない振る舞いをすること、そしてエステルのただ一人の血族、弟のリゼルグの面倒を見ること、などなどを言われた。
「その、エステルにはリゼルグさんって弟がいたんだね! たぶん‥‥まだ会ったことがないと思うけど‥。どこにいるの?」
「ああ、そのことなら多分問題ない。すぐ会うことができるじゃろう。あやつは騎士としてまだまだじゃからな‥‥。わしが見てなければならぬのだが‥仕方ない、おぬしに託すぞ」
(まだ幼いのかな? ふうん、そういう優しい一面もあるんじゃん)
「わかった! まっかせといて! 私、弟とか憧れだったの! しっかり面倒見るね!」
ここに来てから1、2時間は経った。ひとしきりお互いの世界について話し合ったが、いっこうにこの世界から出られる様子がない。これはもしや‥‥ここから出ることがまず出来ないパターンなのか?
「これ‥いつ帰れるんだろう‥‥」
「そんなことわしが聞きたいわ! 本当に最悪じゃ、こんな小娘と入れ替わったあげくこんなところに閉じこめられるなんざ‥‥。大体、おぬしの体には脂肪がありすぎるのじゃ! なんじゃその二の腕は! これじゃ満足に剣も振れんわ!」
「う、うるさいわねえ! 別に太ってなんかないし! 女子高校生は普通こんなもんよ!」
「いいや、あの二の腕にはびっくりした。それに髪の毛も微妙な長さで、結うには短すぎるし、非常にうっとうしかったぞ。切ろうかと何度思ったことか。顔も‥‥ふっ」
「ちょっと!? なに鼻で笑ってんのよ!? 私、自分で言うのもなんだけどクラスでは可愛い方なんですけど!! そりゃエステルと比べたら全然だけど!! そして絶対髪の毛切るんじゃないわよ! それこだわりの長さなの‥‥黄金比なのよ!!」
「おぬしみたいな平平凡凡な奴と入れ替わってなんとわしは運の悪いことか‥‥こんなことならせめて剣の振れるようなやつと‥‥
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「は!!!!!!」
「ここは‥‥‥戻ってきたのかー。はあ‥。こっちかー」
私はまた戻ってきた。魔族と人間が争い合うこの世界に。
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