丘品くんと国語先生

狼煙

第1話 丘品君と自己紹介

教師「よっしゃ、これで全部確認おしまい。いやー、疲れたわー」



教師(俺の名前は国語教師くにがたりきょうすい片仁高等学校へんじんこうとうがっこうに在籍する教員で、3年2組の担任を持つ者だ。生まれは関東だが関西弁が好きなため、こんな喋りをしている)



教師(そんな俺は、新しく受け持った生徒の自己紹介用紙を全て見終えたところだ)



教師「さーて、チェックも終わったし、次の仕事を……ってあれ? 1枚紙が落ちてる。あかんなー、しっかりせな自分!」



教師「そんでこれを出した生徒の名前は……『丘品緒所おかしなおとこ』。確か放課後出しにきた生徒やったな。大人しそうな感じの。さて、最初の『あなたの好きなことは何ですか?』にはどう答えたんやろか?」



丘品『私が好きなことは刺繍ししゅうです』



教師「へー、刺繍とか今時珍しいんとちゃうか? ぬいぐるみとか作るんやろか?」



丘品『人形を針で滅多刺しにするのが大好きです』



教師「怖っ! なんなんそれ!? つかそれ刺繍ちゃうぞ!」



丘品『でも見られたくないのでいつも夜の2時に神社でシています』



教師「完全丑の刻参りやん! 何やこの子! 何か辛いことでもあったん!?」



丘品『一番好きなのは私以外の生き物が苦しむことなんですけどね』



教師「ただのサディストやった! 弁護の余地なし!」



丘品『大丈夫です、いい成績をくれる先生にはしません。でもそれ以外は……』



教師「何で区切んの!? つかこれどう飾っても脅迫やん!? 担任受け持った初日なんやけど!」



丘品『もちろんちゃんとお礼もします。校長先生のお人形を差し上げます。たっぷりスプラ……可愛がってくださいね』



教師「いらんわ! ちゅうかなんやその言い間違い! おかしいやろ絶対!」




教師(なんなんこの子? こんな性格の子やったんか? 『好きな教科は何ですか?』には何て答えたんやろか……)



丘品『好きな教科は社会です』



教師「意外と普通やね……」



丘品『いかに法律をくぐってヤるのかを考えるとワクワクします』



教師「すな! ワクワクすな! そんなん教える教科やないぞ!」



丘品『ちなみに先生、キセル乗車は窃盗罪せっとうざいではなく詐欺罪さぎざいになり、罰金を支払わされるそうですよ? 大変ですね』



教師「俺キセル乗車なんて1回もしてへんから! 悪いことなんて、精々子供時代にやった立ち小便くらいや!」



丘品『立ち小便は局部、または臀部でんぶを露出することで見た相手に不愉快な思いを抱かせます。刑法174条・公然猥褻罪こうぜんわいせつざい、もしくは軽犯罪法1条20号・身体露出罪しんたいろしゅつざいが適用されます』



教師「先読みされた!? しかもなんやこの書き方! 検事か!」



丘品『私は普通の人です。父親も一般的なサラリーマンです、勤務場所は公園のブランコですが』



教師「また読まれた! ホンマのエスパーか! というか親父さん可哀想やからやめてやって!」



丘品『俺が作った遊具で子供達が遊ぶのを見るのが大好きだと語っていました』



教師「そっちー!? 確かに早とちりやったけども! そしてカッコいいな親父さん!」




教師(あかん、全然分からんわこの子……『何部に所属していますか?』にはどう答えたんやろか……?)



丘品『私が入っているのは吹奏楽部です。でもまだ下手でいつも荷物持ち。お陰で楽器の吸い口に豆板醤とうばんじゃんを塗りやすくて助かっています』



教師「助かるな! 高いんやぞ楽器! そんなんしたらすぐダメになるやろが!」



丘品『大丈夫です、塗るのは顧問の先生が吹く楽器だけですから』



教師「何も大丈夫やあらへん! 先生泣くわ!」



丘品『同情しなくていいですよ。顧問の先生、この間国語先生の悪口言ってましたし。あの名前で何で社会教師なんだって』



教師「それ悪口やあらへん! 俺もちょっぴり思ってることやし!」




教師(何かもう疲れてきたわ……『あなたの一番の思い出は何ですか?』や『最近悩んでいることは何ですか?』にはどんな解答したんやろか……?)



丘品『私の一番の思い出は□です。

   問1.□に当てはまる語句を以下の選択肢から選びなさい。

   1.だが 2.しかし 3.体育祭』



教師「何で突然国語のテスト! しかもほぼ同じ意味! こんなん3しかあらへんやろ!」



丘品『正解は4.ボディビルコンテストの審査員をした職場体験でした』



教師「そんな職場体験あるか! しかも無い選択肢を解答にすな! クレームもんやぞ!」



丘品『忙しさを盾に責任逃れをしようとする薄汚い大人以外には見えるインクで書きました。よって合法です』



教師「あるかそんなん! あったらノーベル賞モノや!」



丘品『これを書いたときの作者の気持ちを50字以内で答えなさい。(5点)』



教師「だからテストか! つうか答えるのお前の気持ち! しかも採点とかどうつけるつもりなんや!」



丘品『模範解答は裏にあります』



教師「あるんかい!」(裏返しながら)



丘品『今日の夕飯はお肉食べたいなー』



教師「ただの感想が解答になるか! ならんわ! しかも20文字にもならん! こういう問題は8割くらい書くのが通例やぞ!」



丘品『そんな私の最近の悩みは自分の個性が薄いと感じることです』



教師「絶対濃いわ!」

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