第三章 ゾンダーク教について

第14話 女神の乳房

 これは夢の中でのお話しである。

 夢の中……、いや……おそらくたぶん夢なのだろう。

 おそらく……


 ブシン・ルナ・フォウセンヒメは、豊満な胸をしている。

 アラタ・アル・シエルナは、フォウセンヒメに頂かれ彼女の乳房を吸っていた。

 まるで、甘えん坊の幼児のように。


 自分のことを俺という女神が、まるで母親のように愛おしそうにアラタの髪をなでた。

 女性であるということを否定するかのように、自分を俺と呼ぶ彼女がである。


 女神の素肌は透き通るように綺麗だった。

 そしてアラタは、女神のその柔らかい胸に顔をうずめた。

 彼も母親を知らずに育った子供である。

 母親にいだかれたように、この夢の中でアラタは安心したように眠りに落ちた。


 これは、夢だ。


 突然、大きなドアが現れ、勢いよくそのドアを開ける者がいた。

 ドアから顔を見せたのは、マルコ・デル・デソートであった。

 マルコの顔はとてつもなく大きく、ドアからにゅるりと顔を出した。


 アラタは、そこで目を覚ました。


 何か夢を見ていた、と思う。

 奇妙な夢だったような……

 どんな夢であったか、思い出そうとした。

 しかし、もう思い出せない。



***



 その日、マルコ・デル・デソートは朝からイライラとしていた。

 引きこもっているアラタを引きずり出そうとして、彼の部屋のドアを勢いよく開けた。

 すると、そこは『アハナ』であった。


 『アハナ』とは神域である。

 そこに在るのは、ただただ静寂のみであった。

 怖ろしくなるほどの静かな空間。

 そこにアラタと女神がいた。


 アラタの部屋が『アハナ』なる神域になっていたのも驚きだが、そこでアラタが女神の乳房を吸っているところを目撃してしまったのである。

 さすがに、マルコもそれには驚愕した。

 そして、慌ててドアを閉めた。


「ぬぅぅぅぅぅぅ、ぬぅぅぅぅぅぅ」


 ぬぅぅぅというのはマルコが考え込んでいるときに出す声である。

 今、俺は何を見たのだろうか? 彼は考えた。

 考えてみた結果、マルコが出した結論は「あの野郎、女神とそういう関係だったのか!」ということであった。


 正直、イラっときた。元々イライラしていたのだが、さらにイラっときた。

 そして彼は、しばらく、ぬぅぬぅ言いながら廊下をあっちへ行ったりこっちへ行ったり歩きまわっていたが、意を決してもう一度ドアを開けた。


 ドアを開けるとそこはもう『アハナ』ではなかった。

 元のアラタの部屋である。

 マルコが突然ドアを開けるから、寝ていたアラタはびっくりして飛び起きた。


「先ほどはすまなかった」


 謝っているがマルコの声は怒っている。


「な、何がですか?」

「まさかお前とあの女神がそういう関係とは知らなかったのだ」

「ど、どういうことでしょうか?」

「もう見てしまったのだ! 隠す必要もないのだ!」

「なんの話しだか、まったく分からないんですけど……」


 アラタからしてみると、何か奇妙な夢を見たと思ったら、急にマルコが入ってきて怒っているのだ。


「マルコ先輩、なんだか分かりませんが、部屋に入るときはノックくらいして下さい」

「そうだな、これからはそうするよ……

 まったくいいご身分だな、お前は! 自治会長のくせに!」

「マルコ先輩、自治会長でなく自治領主です」

「どっちでもいいのだ! 引きこもりのくせに!

 くぁぁぁぁぁぁ! くぁぁぁぁぁぁ! くぁぁぁぁぁぁ!」


 マルコは怒っている。

 そして、怒りで完全に我を忘れている。


「てめぇ、表に出ろ! 決闘だ!」

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