第7話 王城の地下牢
「この国の秘密を知らないはずもなかろう? と申されましたか?」
盲目の老人は聞き返した。
「そうだ」
「シエルクーンの新しき王様は『秘密』をご存知なので?」
「何が言いたい?」
「わたくしたちを統べることができるのはアル様だけでございます。
真の王は、アル様だけでございます。
わたくしたち人類の王は、アル様だけでございます」
「アル・シエルナのことか?」
「アル・シエルナ……アル・シエルナ
さて、わたくしにはアル様としか申しようがありません」
ミラノはさらに不快そうな顔をした。
「先日、アル様の声を聞きました。
あの声は確かにアル様でございました。
しかし、アル様はわたくしのことをお忘れであるようでした」
「何の話しをしているのだ」
王家の家臣であった老人はミラノを無視して話しを続ける。
「あの時は雨が降ってきました。
そのため『別の空間軸』に移動しましたが、
しかし、わたくしはあの世界に長居でできませぬから、
アル様だけあの世界に置いてきてしまいましたが」
老人はそう言って笑った。
この老人の言うことは、ミラノにはよく分からない。
おそらく、呆けているのだろう。
「お前に時間軸移動の力などあるのか?」
あるわけがない。
これはどういうことだ?
ミラノはノリスを見た。
「殺せといったはずだ!」
少年王は宦官に言った。
「おお、おお、わたくしめはもちろん殺しますとも、
しかし、王陛下の父君はたいへん興味深いものですから、
まだ、殺してはおりませぬ。
王陛下は直ちに殺せとはおっしゃっておられなかったものですから、
殺すのはいろいろと研究をしてからにしようかと、
いろいろと試してみてからにしようかと」
ミラノは魔導で現出させた杖でノリスの顔を打ち付ける。
ノリスの顔は裂け、血が飛んだ。
しかし宦官は微動だにしない。
むしろ、喜んでいるようにすら見える。
「王陛下、王陛下、申し訳ございませぬ。
どうぞ、わたくしめをお殺し下さいませ、
シエルクーン王家の者に殺されること、
わたくしめにはそれ以上の喜びはございませぬ」
狂っている。
何もかもが狂っている。
ミラノ・レム・シエルクーンはそう思った。
いや、彼自身も例外ではなかろうけれども。
彼は自分自身のこともおぞましく思っている。
この王家の血を呪わしく思っている。
「先王は、まだ生きているのだな?」
ミラノは静かに聞いた。
「おお、おお、ミラノ王陛下はお気づきではなかったのでございますか?」
ミラノさらにノリスの顔を打ち付けた。
「どこにいる?」
「王城の地下牢でございます。
しかし、生きているといいましても、もう程よく漬物のようになってございますが」
「つけもの?」
「ええ、漬物でございます」
ノリスは潰れた顔で、喜びに似た表情を見せた。
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