第15話 魔導王国の迷宮
ミラノ・レム・シエルクーンは、シエルクーン魔導王国の国王である。12歳のアラタより年下の少年だ。
シエルクーン魔導王国は古い歴史を持つ国である。
ジュノー太陽歴という暦が始まる以前から存在していたといわれる。
ナユタ、アラタ、ミラノの3人のうち、誰が最も
彼ら3人に共通しているのは、父親も母親ももう既に死んでいるということである。
といってもミラノとアラタの父親であるシエルクーン魔導王国の先王を殺したのは、ミラノ・レム・シエルクーン自身であるのだが。
シエルクーン魔導王国の王宮において、彼が信用できる者は誰一人としていなかった。
彼はいま、王宮の地下迷宮にいた。
日に一回、地下迷宮に入り、ルナドートの神々に祈りを捧げることは、魔導王国国王の勤めであった。
「ミラノ坊や、元気にお過ごしであったかな?」
地下迷宮で彼に話しかけたのは、赤い服を着た老婆であった。赤、緑、橙色の3つの石からできた首飾りをつけている。
彼女の名前は〈エスタ・ノヴァ・ルナドート〉である。ルナドート教の主神だ。
主神〈エスタ〉は、時に少女の姿であり、時に老婆の姿をしている。というよりは、一定の姿を持っていないのである。
ミラノ・レム・シエルクーンは、不意に話しかけられたため少々驚いた。
「エスタ様、元気に……と言われましても、僕はただ……」
「僕はただ?」
「僕はただ、国王としての勤めを果たす日々を送るだけです」
少年王はそう言い、表情に呪わしげな陰をおとした。
「ミラノ坊やは、異界の神と交感を行っておるようだが?」
「エスタ様、いけませぬか? ルナドートの神々は僕を助けてはくれないじゃないですか」
「おお、ミラノ少年王よ、別にいけぬとは言っておらぬ」
〈エスタ・ノヴァ・ルナドート〉は笑みを浮かべた。しかし、その表情からはその笑みが何を意味しているのかは分からない。
「この国に『蒼き死の病』が発生いたしました。『病』をもたらす魔物を討伐するため、異界の神の力を借りたまでです」
「いけぬとは言っておらぬよ」
そう言って〈エスタ〉は再び笑みを見せる。
「しかし、異界の神と交感を行えば、坊やの命を削ることになる」
「エスタ様、それが何だというのですか? 僕は早く死んでしまいたいくらいです」
今度は〈エスタ〉は、はっきりと「ふふふ」と笑った。
「エスタ様、何をお笑いになられているのですか」
「アラタ・アル・シエルナのことよ」
「お兄様? アラタお兄様がどうしたというのですか? エスタ様は、僕があの貧民窟を魔物に襲わせたことをお怒りになられているのですか?」
少年王の顔に奇妙な怒りの表情がうかぶ。
「それもかまわぬ。この国のことは坊やの好きにすればよろしい。坊やの好きなようにして、何人の人間が死のうとも私はかまわぬのだよ」
「では、お兄様がどうしたというのですか」
「シエルクーンの王よ、逆に聞こう。アラタ・アル・シエルナがどうしたのだ?」
「意味がわかりかねます。僕はアラタお兄様のことをどうとも思っておりませんが?」
それは違うだろう。どうとも思っていないのであれば、その異母兄弟を自治領主にしたりはしないであろうから。
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