第2話 王女と暴牛

 ナユタとドラゴが草むらで「くか~くか~」と寝息を立てて昼寝をしていると、近くで爆発音がした。

 ナユタはその音で目を覚ました。

 見ると、ナユタと同じくらいの年齢の女の子が暴牛ランペイジ・ブルと戦闘を行っていたのだ。


「ちょっと、あなたやっと起きたの? 暴牛ランペイジ・ブルに襲われそうになっていたのよ!」


 そう言いながら彼女は暴牛へ【黒魔導・炎】を放つ。大きな炎の球がその魔物モンスターに当たり大きな爆発音をたてる。

 彼女の黒魔導は確かに魔物の体力を奪っていく。


「なんだそのでかい気味の悪い牛は?」

「だから、暴牛ランペイジ・ブルって言ってるでしょ」

魔物モンスターか!」


 暴牛は大きな2本の角と3つの目を持っているのが特徴の魔物である。

 彼女は再び【黒魔導・炎】を放つ。黒魔導は魔物に命中する。

 魔物は「ぐもももオオオ」と声をあげてやがて息絶えると、赤い魔石と化した。


「おおすごい黒魔導だな。ところでお前は何をしているのだ?」

「? だから、あなたが暴牛ランペイジ・ブルに襲われそうになっていたから助けてあげたんじゃない!」


 ナユタは「そうでしたか。ありがとうございます」と言って、まだ寝ているドラゴを起こした。


「トラコ、行くぞ」

「むにゃむにゃ、っもう行くのか? 冒険者ギルドは見つかったのか?」

「いや、歩きながら探すしかないな」


 さて、どうしたものかと彼は小声で言った。


「あ、あのー。助けてあげたんですけど……」

「ですので、ありがとうございます。それでは」

「それではって、このまま行っちゃうつもりなの? 私はこの国、ダルシア法王国の王女、サクラ・リイン・ダルシアよ!」

「そうでしたか。王女様でしたか」


 魔導書の精・ドラゴは「この人は誰だ?」という顔をしたが、ナユタが行ってしまうのでついていった。


「って、本当に行っちゃうの? 王女だって言ってるでしょ? ええー王女様なんですかー驚きましたーとかないんですかー?」

「むむ、しつこい女だな! 通常、こんなところに王女などいないのだ! ということはお前は王女ではないということだ!」

「王女なの! 王女だって言ったら王女なのよ! 第七王女だけど!」


 ナユタは可愛そうな者を見るような目つきで彼女を見るとドラゴに言った。


「トラコ、これは自分のことを王女だと思い込んでいる可愛そうな子だ。関わらない方がいい」

「そうだな。可哀想だが、関わらない方がいいな」

「なんなのこの猫? 人間の言葉を話すの?」


 ドラゴは猫扱いされムッとしたようだ。


「オレは猫ではない! 魔導書の精だ」

「魔導書の精? すごい! 私、魔導書の精はじめて見た」

「そういうわけで、自称王女様、我々は冒険者ギルドを探しているのです。腹が減っているため至急探さねばならぬのです。それでは」


 そしてまた行こうとするナユタを彼女は止めた。


「ちょっと待って。お腹が空いてるのね。じゃあ私がなにか食べさせてあげるわ」

「むむ? 食わしてくれるのか?」


 ナユタは食事にありつけそうになり、心底嬉しそうな顔をした。

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