魔人転換 ー転生魔王は静かに暮らしたいー

じゅごん

第1話 (プロローグ)元魔王の望みは、静かに暮らすことである

「魔人転換」


 母上の胸に抱かれながら、吾輩は心の中で呪文を唱えた。

 吾輩の魔法に呼応するように、目の前のフェンリル(犬型の魔物)がゆっくりと光の粒になり、別の姿へと形を変えていく。フェンリルは、モフモフの子犬になった。


 予定では「魔物」から「人」になるはずであったが、どうやら「魔物」から「魔物以外」になるようだ。


 ふむふむ。中々便利な術ではないか。

 吾輩の静かな生活のため、有効活用させていただくとしよう。


 生後3日目にして、吾輩は唯一無二の魔術の使い手となった。


 ◇◇◇◇


 吾輩は魔王だった。名を、リーベンという。


 吾輩は、自分で言うのもなんだが真面目な性格だった。その上、努力家で仲間思いだったと思う。


 吾輩は同胞達のため、来る日も来る日も戦に明け暮れ、魔物が平和で豊かに暮らす世界を作るために生涯を費やした。


 それはもう、頑張った。滅茶苦茶に頑張った。


 しかし、吾輩が頑張れば頑張るほど、人間達から恐れられ、溝が深まっていった。

 まあ、それは仕方がない。守りたいものが違うのだ。人間が嫌いな訳ではなかったが、人間を食料とする我らと、我らを敵とみなす人間との共存を夢見るほど、吾輩は甘くはなかった。


 吾輩は、この星の7つの大陸の内、5つを手中に収めたところで「勇者」とやらに殺された。

 勇者は、吾輩の城に無断で踏み入った挙句、大人しい魔物や戦う力を持たぬ女子供まで手にかけた。

 恨んでなど、おらぬ。

 守る対象が異なっただけで、吾輩も勇者も、自分の正義を信じて戦ったのだ。

 だから、恨んではおらぬ。

 だが、許さぬ。


 最期の瞬間。

 勇者の剣に胸を貫かれながら、吾輩は勇者に願った。


 どうか、もっと良い世界を目指して欲しい。

 争いのない、平和な世界を……と。

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