土竜編

 市場との往復便に揺られながら、ぼんやりとしていた。店は臨時休業にして、郵便局には配達の停止を頼み、一応、気休め程度の装備を持って、向かう先はドラゴンの国。

 手紙を寄越して会いたいというからには、元気にしているんだろう。個人ではなく、国の公式文書の便箋で送るあたり、強い意思を持って。配達員が中身を知っていたことを考えれば、確認済みなんだろう。

 きっと、挨拶ばかりで彼らは拍子抜けしただろう。暗号があるのでは、と獣の王がにらめっこする姿が目に浮かぶ。

 うとうととしていると、到着だぁ、と便の主が声をあげる。検問を受けるために馬車から降りて、外に出る。さて、あいつはどこにいるのか。

 シェーシャとは現地の検問、すなわちここで落ち合うことにしている。飛ぶ彼女が道に迷うことはないだろうが、あいつのことだからどう転ぶか……と、よく見れば詰所らしいところで、こちらに背を向けて腰を下ろしている。

 馬車の主に金を払って、呼ぶ。数回呼んだところでこちらに気がついて、のんびりと近づいてくる。もちろん、歩み寄って迎える。

 国を囲む高い石壁を、検問を終えて通り抜ける。淡々と職務をこなす兵は、隣国からの派遣された者たちだ。スカーフにある紋章の刺繍はここのものではない。

 まだ、見た目の復興しかできていない、ということか。あのときからかなりの時間が経ったと思っていたが、現実は、そうではないらしい。

「懐かしいね」

 門から続く大通り。視線を上げれば、青い空を背景に巨大な城がそびえる。そうだな、と答えることしかできない。

 あの日は、今にも降りだしそうな曇天だったか。

 門を破った先を塞ぐ、兵の群れ。

 惨劇の幕開け。

 今は見る影もなく、国民が歩く。

 市場よりも閉塞感があるものの、笑う声と顔。

「シェーシャ、何か食うか。あいつ舌がどう肥えているのか楽しみだが、おまえは生の方がいいだろう?」

 うん、と背後から。

 国王に出される食べ物が、口に合うとも限らない。とくにこいつは。だから、傭兵、いや、庶民らしいものを食ってから、城へ向かうことにしよう。

 あいつが、どんな国を作ってきたのか。見て回るにはいい機会だ。

「ねぇ、あれ見て。ギルじゃない?」

 ぐいと服を背後から引っ張られ立ち止まる。彼女の示す先には広場があり、その真ん中には立脚類の竜と、それを守るように寄り添う飛竜の像の姿。

 ……いや。

「よく見ろ。俺はあんなにトゲトゲしてねぇ。国王のだろ。飛竜の方は……たしかここて信仰されてる守護神のドラゴンだろ」

 えー、と首をかしげるシェーシャ。

 凶悪そうに牙を剥き、無機質ながらも穏やかさの見え隠れする目。角もなければ、手もない。

 あれはきっと……。


◆◆◆◆


 ゲーム構成にネタバレがないようにとらべるさせたらこうなった!


 英雄が戻ってきても、彼らもまたただの一個人。英雄である前に、一個人として振る舞わせてあげたい。

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