第19話
警視庁につくと、俺たちは彼女を、俺が泊まっている部屋の隣の客室に案内し、藤原と細野の取調室に向かった。
「あいつらには、まだ仲間がいるんだよな?」
「はい、山崎っていう高校生がいます。どちらかと言えば、そうつの方が主犯って感じですね」
「海斗はここで待ってろ、俺が行ってくる」
「あ、ありがとう…」
なんだか、親父がかっこよく見えた。こんな感覚、初めてかもしれない。
ガチャ
扉を開け、親父が取調室の中に入っていく。
俺は音声を入れて、取調室の音を聞いた。
「お前らに、聞きたいことがある」
「なんだよ?山崎の場所なら知らないぜ?」
「まだ、何も言っていないだろう」
「じゃあ、何を聞きにきたんだよ?」
「なぜ、彼に協力したんだ?」
「はぁ?どういう意味だ?」
「主犯が山崎という少年だということはわかっている、つまり、お前たちは共犯者ということだ。本来、教育者という立場のお前たちが、何故、自分の生徒を手にかけることに協力しかのか、それが知りたい」
「別に、理由なんてないさ」
「なんだと?」
「なんとなくだよ!犯罪を犯すことに、いちいち理由がいるのかよ」
バンッ!
親父が思いっきり机を叩いた。
刑事ドラマでしか見たことのないシーンを、現実で初めてみた。
「ふざけるな!犯罪を犯す時点でお前たちは間違っているんだ。しかも今回は被害者がいるんだぞ!下手したら彼女の心が壊れていても、死んでいてもおかしくなかったんだ!それをなんとなくやっただと?ふざけるのもいい加減にしろ!」
「……」
「お前たちが白状するまで、俺は何時間でもここにいるぞ、それまでは、飯もなしだ。わかったな!」
「そ、そんな…」
親父が本気で怒っているところを、俺は初めて見たかもしれない…
十六年も一緒に暮らしていたのに、一度も見たことのない親父の顔を俺は今回、たくさん見ることができた。
この、かつての親父の姿が、本当の親父の姿なのかもしれない…
「頼んだぜ、親父…」
俺は取調室を後にし、彼女のいる客室に向かった。
ノックをして、部屋に入る。
「そろそろ落ち着いたかな?」
「あ、はい。もう大丈夫です」
「朱音!」
「えっ?な、なんですか?急にあらたまって」
「今、あいつらは取り調べしているんだけど、俺からは君に聞きたいことと、言わなきゃならないことがあるんだけど、聞いてくれるかな?」
「は、はい。わかりました」
「あ、タメ口でいいよ。俺、同い年なんだしさ」
「あ、でも…」
「お願い、その方が、俺も話しやすいしさ」
「は…、うん、わかった」
やはり、大切な話を切り出すにはタメ口で話せるぐらいの仲じゃないとダメだと思う。
これから話す内容は、それほど、重要なのだ。
「あのさ、山崎のことなんだけど、あいつとの関係、ゆっくりと離してくれるかな?あの時は、詳しく聞けなかったし」
あの時というのは、彼女を初めて助けに行った時だ。
「そうだね、私もしっかり話したかったんだ」
「山崎との関係を、詳しく教えて欲しい」
「山崎くんは、二年生になって同じクラスになった人だったの。私はそんなに気にしていなかったんだけど、周りからは、かなり自己中心的だって言われてたわ」
そうだろう…放っておけば、「間違ってるのは世界の方だ!」とか言い出す可能性まであるだろう。
「そして、私が彼を振った二日後に、彼はいきなり私を呼び出したの」
「なんて?」
「一つだけ、伝え忘れたことがあるって」
「なるほどね、それでそこに行ったら、あいつらがいたってわけか」
「そうね、先生たちがいたから、なんか変だなーって思ったんだけど、気づいた時にはもう遅かった。いきなり細野先生に変な匂いのするタオルを当てられて、そのまま…」
この子は、優しすぎるゆえに、人をあまり疑わないのだろう。そして奴らは、その優しさを利用した。
とても許せることではない。
「じゃあさ、言いたくなかったらいいんだけど、あいつらにはどんなことをされたんだ?」
なんやかんやで、これが一番気になっていることではあった。男たちが女の子を拐ってやることといえば、あーんなことや、こーんなことだと、大体予想がつく。
だが、もしそれが本当に起きてしまっているとしたら、彼女はもちろん、俺の心にも大きな傷になってしまう。
「ど、どんな事って言っても…」
「いや、言いたくなかったらいいんだ…」
「そ、そんなことはないんですけど、ちょっと変だなって思うことがあったんです…」
彼女が敬語に戻っている。一体何があったのだろう…
「そ、それは一体なんですか?」
「あまり大声では言えないんですけど…」
そういうと彼女は、俺の耳元で小さくこう言った。
「一回も、本番をしてこなかったの」
「えっ?」
一体どういうことだ?
ここで彼女の言ってる本番というのは、間違いなく性行為のことだ。
こういった事件なら、犯人は必ずそういうことを行うはずだ。逆に、しない事件なんて、聞いたこともない。
「じゃあ、何もされてないってこと?」
「ううん、そういうわけでもないの。本番以外のことはいろいろしてきたわ。とても言えないけれど、本当に嫌だった」
つまり、奴らは、なんらかの理由で、本番の性行為だけをしなかったということになる。
「でも、山崎くんは言ってたわ」
「あいつが、なんて?」
「散々ひどいことをした後、まだか…、って」
「まだか?」
「うん」
山崎は、彼女が何かするのを待っていたということなのだろうか…
「わかった。ありがとう。それで、もう一つの、言わなきゃいけない話なんだけどさ」
「うん、聞かせて」
言うしかない、俺はこの人に信じてもらえないと、未来に帰ることはできないのだから。
「今からいうことは、信じられないと思うけど、本当のことなんだ」
「うん」
「実はさ、俺、この世界の人間じゃないんだ」
「うん」
「本当は二十年後の未来からきたんだ、さっきの刑事、佐倉海の息子なんだ」
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