俺が男を好きになるわけない!
鈴本 龍之介
俺が男を好きになるわけない!
駅のホーム、電光掲示板には次の電車はもうない。
「やっちまったな……」
家の最寄駅からは10駅ぐらい離れているだろうか?俺は仕方なく改札を出て辺りを見渡す事にした。周りには目立つ建物はない、どうやら随分と田舎まで来てしまったみたいだ。仕方ない、始発までベンチで座って待つか……
30分ぐらい経ち、携帯の電池が切れた。音もしないこの駅で、この町で、あと4時間ほど待たなきゃいけないと考えると鳥肌が立った。幸運なことに寝れない程の寒さではない。さっさと寝て始発を待とう。
意外と寝れないもんだな……目を瞑って無理やり寝ようとする。モヤモヤしてると車が通る音が聞こえた。こんな時間に何だろうと思っていたら近くで止まった。周りには何も無いのに……少し不安がよぎる、そしてその予感は少しずつ当たり、車から降りてきた足跡が近づいてくる。俺は誘拐でもされてしまうのか、覚悟を決めた。
「あのー?大丈夫ですかー?」
無視をする。さっさと帰ってくれ、俺は寝たいんだ。しかし野郎は帰らない。今度は体を触ってきた。
「風邪引きますよー!」
体を揺する強さが増してくる。このままじゃベンチから落ちてしまうだろ。何で話しかけてくるんだよ。俺は耐えかねて飛び起きた。
「何なんだよ、一体!」
ムカつく野郎はどんな顔をしてるのか目に焼き付けてやろうと目を開けた。かわいい顔……いや、待て声は男だ。俺はその野郎の話を聞くことにした。
「俺は寝てんだよ、邪魔すんな」
「いやー、もしかして終電逃しました?」
「そうだよ、だから何だよ」
「よかったら……送りましょうか?」
なんだよ、良い奴かよ。俺は一瞬でこのウザい野郎が天使に見えた。そんな事ならさっさと起こせ、ありがたく善意を頂こう。
「いいのか?結構遠いぞ」
「いいですよ!ドライブ好きなんで!」
「じゃあ遠慮なく」
俺より若いのにまあまあ良い車乗ってるじゃん。助手席に乗り込むと、甘ったるい芳香剤が鼻をつく。良い奴そうだけど、俺とは趣味が合わないな。そんな事を考えてると、家の場所を聞いてきた。それもそうか、じゃなきゃ動けないか。
「阿寿川って駅に行って欲しいんだ」
「おー、良い距離ですね!」
「送ってもらって悪りぃんだけど、少し寝かせてもらうわ」
嫌味なのか素で喜んでるのか分からないけど、着くまでの間寝させてもらおう。エンジン音と車の揺れを子守唄に寝ようと目を瞑る。これがすんなり寝れちゃうんだよな……
脳内も眠りに落ちそうになったその時、突然運転手が大声をあげた。
「あー!ガソリンが無くなる!!」
「ん……何だって?」
「ガソリンが無くなります!!」
「ガソリン……えぇ!?マジで言ってんのか!?」
「どうしよう……近くにガソリンスタンドもないし、この時間じゃどこもやってないし……」
「とりあえずどっか止まるしか無いだろ」
「そ、そうですね!ちょっと探しまーす!」
そしてグルグルとあそこはダメここはダメって走り続けて……
「何で行き着く先がラブホなんだよ」
「いや……車を止めれるとこがなくて……えへへ」
「何笑ってんだよ、朝までいるだけだからな!変な気起こすなよ」
俺達は車を降りてフロントへ行く。パネルは8割ほど暗くなっていた。そういや週末だったか……空いててよかった。時間が時間だったので宿泊で入る事に。どうせならゆっくり寝たいし……
俺は財布を取り出して半分払おうとした。しかし、隣でモジモジしてる。
「あの……言いにくいんですけど……」
「え、もしかしてお前」
「今800円しかなくて……」
「おいマジかよ〜、ガソリンどうするつもりだったんだよ」
「忘れてました……ははは」
仕方なく俺は全額払った。こんな事ならタクシーで帰ればよかったわボケ!鍵を受け取りエレベーターを待つ。遅い……少しイライラしてると入り口が開く音がした。マジかよ、男2人でいる所なんて見られたくねぇよ!
「もう〜ちょっと早いよ〜」
「良いじゃん我慢出来なくなってきちゃったよ」
「ん〜もう〜」
はぁ、イチャイチャカップルか?片やこっちときたら知らねぇ男と2人同士だよ。早くエレベーターこーい。
30秒ほどの時間がひどく長く感じた。
「おい、早く乗るぞ」
「え、ちょっと何ですか急に!」
「見られたくねぇんだよ!」
「あ、ああぁっ!」
俺は何してるんだ。ラブホのエレベーターで男を押し倒すなんて……
「あの……重いです……」
「あ、ああ!悪りぃ!」
あれ、何だ今の感覚……気のせいか。俺は野郎の手を引き寄せ起こした。そんな事をしてるうちにエレベーターは7階に止まる。部屋は702、人に見られないようにさっさと入ろう。
部屋に入ると中は大きなベッドが中心に待ち構えていた。きっとカップルはこの上で愛し、愛され合うんだよなって考えると悲しくなった。
俺はベッドに腰掛けて妙な長旅の疲れを癒そうとした。が、なぜか隣に座ってくる野郎。
「俺が金払ったんだからお前はそっち座っとけ」
「……はーい」
変にしょんぼりするもんだからこっちが悪者に見えて仕方がない。けど周りに人だっていないから気にする事はない。
「あ、あの……」
「なんだよ」
「さっきからお前お前って、名前で呼んでくれませんか?」
「は?名前?」
「はい、僕カズキなんで好きなように呼んでください!」
「か、カズキ?」
「はい!僕はなんて呼んだら良いですか?」
「佐藤でいいよ」
「佐藤さんですね!」
名前なんてどうでも良いよ。こっちは疲れてるんだからさっさと寝かせてくれ。なーんてベッドで横になったら一瞬で夢の中。こりゃ気持ちいいわ。
ビリビリと頭の先から足の先まで電気が走るように、それでいて心地よい刺激。寝るっていうのは気持ちがいいわ。
……あれ?何か温かい?漏らしたか?慌てて起きてみると俺はその光景に絶句した。野郎が俺の愚息を口に含んでいた……そりゃ温かいわ。そりゃ気持ちいいわ。そりゃ……っておい!それどころじゃねぇ!
「お、おい!何やってんだよ!」
「え、何って……フェラ?」
「ややや、そういう事じゃなくて!何でお前がしゃぶってんだよ!」
「……?あ!しゃぶりたかったですか?」
「違う違う!そういう意味じゃなくて!」
「でも気持ち良さそうでしたよ?」
いや、確かに気持ちよかった……気がする。けど夢の中じゃノーカンでしょ?こいつにしゃぶられてて勃つわけねぇよ!
「いいから離れろよ!」
「んー……ぱくっ」
「はぅっ……!な、何でだよ……」
「そういうフリかなって?」
「ば、ばか……そうじゃねぇ……って……」
くそっ!こいつホモなのか?もしかして最初からこれを狙って誘ってきやがったのか?それよりも早くこいつを鎮めねぇと……考えろ……相手は男だ……男……
チラッと顔を見る。くっ……顔だけは一丁前に可愛いな……思わず愚息が反応してしまった……
「あれー?気持ちいいですか?」
「そういう……訳じゃねぇって……うっ」
「またまた強がっちゃってー!こんなに固いのに……」
そう言って見てくる上目遣いに俺は更に固くしてしまった…………もう、男とかどうでもいいや……気持ちいいわ……
「どうしたんですか?黙っちゃって?」
「……させてやるって」
「何ですかー?」
「……な、舐めさせてやるって言ってんだよ!」
「なーんだ、じゃあもっと!」
俺は女経験は多い方ではない、けれど少な過ぎる程でもない。多分人並みだ。けれど男の経験は皆無、なのに……どうして……
「お……おい、……ふぅ、ちょっと……やば……」
「ふふふ、男にイカされていいんですか?」
男にイカされるなんて末代までの恥だ!なんて思ってた時期もありました。けれど撤回。愚息を包み込む口の中は、唾液で満たされて十分な摩擦の抵抗を感じつつもしっかりと俺の気持ちいいところを責めてくる。完敗だ。我慢出来ねぇ。
「は、だ、だめだめ……イクっ……うっ!」
「んんっ……」
イってしまった……この一線を越えるか越えないかは大きな違いだ。俺は今、深い沼に足を踏み込んでしまった。
「もー!イクならイクって言ってくださいよー!」
「悪りぃ、気持ちよく……ってさ」
「じゃあ……続きします?」
「続き……?」
そりゃもちろん続きがある事ぐらい知ってるさ。でも、女とは勝手が違うし何しろ相手のモノを見てないし、いざ目の前でそれを目にしたら萎えてしまうかもしれない。
というか、俺はどっちなんだ?入れる方か?受ける方か?
「じゃあ僕、先にシャワー浴びてくるんでそれまでに決めておいてくださいねー」
そう言い残しお風呂場へと向かってしまった。おそらく時間は5分10分だろう。それまでに答えを出さなきゃいけないのか……
考えても考えても答えは出ない。さっきイってなければ答えはすぐ出ただろう。しかし、妙な欲が湧いてしまう。グダグダと考えているとカズキがお風呂から上がってしまった。
「答え……出ました?」
「いや、その……」
答えに詰まってしまった。そんな短時間で男とやるなんて答えが出るわけない。出ないならやめた方がいいんじゃないか?そう思った時、カズキは俺のことを見つめてこういった。
「僕じゃ……ダメですか?」
そんな顔で見られてダメなわけないだろ。俺の理性のダムは決壊した。そこからは本能の赴くままに動いた。
顔をグッと引き寄せ、さっきまで俺の愚息をなぶっていた悪い口にお仕置きをした。カズキの舌に俺の舌を絡ませる。だけど、好きな様にはさせない。あくまでも主導権は俺だ。
とろける様な顔で俺を見てくる。男だろうと関係ない、その顔に俺は興奮しているんだ。
バスローブを脱がすとそこには白くて細い体が隠れていた。女の細いとは違う、少し筋肉質で、でも滑らかな肌。俺はその首から徐々に愛撫していった。
他人の愚息をしっかりと見るのは初めてだったが、どうやら俺の愛撫に喜んでくれているようだ。大きくも可愛らしいその愚息に俺は優しくキスをする。
「もっと……キスして?」
その意地らしい姿に俺の気持ちも高鳴ってきた。初めてだけど愛おしく感じるその愚息を口に含んだ。少ししょっぱいけど、それもまた愛おしい。慣れない口で一生懸命悦ばせた。
「あのね……そろそろ欲しい……な?」
ついにこの時が来てしまった。勝手は女と同じだろうけど、勝手がわからない。ゴムをつけ少し躊躇してると、カズキはお尻を突き出した状態で自らを拡げ俺の愚息を誘導する。
「ここだよ……ここに入れて?」
「ああ……」
分かってはいる。しかし、本当に良いのだろうか?
「早く……!早く欲しいよぉ……」
仕方ない、もう後には引けない。俺は自らの愚息を更に奮い立たせ、カズキの中に飛び込ませた。
「うっ……うぅ……」
「だ、大丈夫か?痛くないか?」
「う、うん……大丈夫、いっぱい動いて良いよ」
苦しそうな表情で無理矢理笑顔を作るその健気さに、俺の気持ちも昂った。少しずつ少しずつゆっくりと動かしていく。その度にカズキは小さい吐息を漏らす。
「……くぅ……っ……あっ……」
俺はその吐息ひとつを聞くたびに、リミッターのネジが1つずつ外れていく。もうこの電車は終点まで止まることができない。俺はさらに激しくした。
「あぁっ……!……んんっ……気持ちい……」
「俺も気持ちいいよ」
「ふふ……んっ……もう…………イキそう……でしょ?」
「ああ……やばい、イク……」
俺は多分人生で1番出したと思う。それぐらい興奮して脳が焼き切れそうだった。ベッドの上で横たわる男2人……
本能のままに動いた事を少し後悔し始めた。何てったって男としてしまったんだから。
「……気持ち……よかったですか?」
笑顔で聞いてくるその顔は、イった後でも可愛く見えた。ならばこれは恋かもな。
「あぁ、気持ちよかったよ」
「……なら良かったです!」
妙な達成感と、妙な疲労感に包まれた俺たちは同じベッドの上で寝てしまった……
目が覚め、慌てて時間を見ると朝の10時。まだチェックアウトには時間がある。隣を見ると、まだスヤスヤと寝ている。思わずその可愛い寝顔にキスをしようとしたその時……
「今、チューしようとしましたよね!」
「は!?そんな事ねぇって!」
「じゃあ何であんなに顔を近づけたんですかー?」
「うるせぇ!早く準備していくぞ!」
流石に、気持ちが高まっていないと恥ずかしい。俺が男を好きになるなんて考えても考えつかないから。
でも、俺はこいつを好きになった。分からないもんだね。
準備が終わった俺たちはフロントに鍵を返して、車に乗り込む。
「この近くにガソリンスタンドってあんのか?」
「無いと思いますけど、平気ですよー」
「……ん?平気?」
「ガソリン満タンなんで!」
「…………はぁ!?お前……まさかわざと誘ったのか!?」
「内緒でーす!」
「おい!ふざけんなよー!」
「ちょっとー!一つだけ言わせてください。初めては佐藤さんですよ?」
「……早く送ってけバカ」
「出発進行ー!」
たまには終電を逃すのもありかもな。
俺が男を好きになるわけない! 鈴本 龍之介 @suzunoto-ryu
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