第17話 試験と変換

「お待たせ致しました。こちらの書類に必要事項を記入いただきます。あ、後見人制度を利用されている方はココとココ、あとココも書かなくて結構です。」


受付嬢が書類の該当箇所を指さしながら教えてくれる。




「あとですね・・・ユウさんは明らかに未成年であるため、冒険者になるためには親類の同意と実技試験、もしくは半年間の教習が必要です。親類の同意は後見人であるアル様で大丈夫ですが、試験か教習はどちらか受けてもらう必要があります。」




・・・やはりか。男を連れて戻ってきた時点でなんとなく想像をしていた。


アルもこの点については初耳だったのだろう。少しきょとんとしている。




「実力の無いものを無闇に死地へ行かせない目的であることは分かるが、実地試験ではそこの御仁を倒す必要があるのか?明らかな実力者のようだが・・・」


アルが質問すると、受付嬢でなく男が答える。




「いや、さすがに新人に向かって俺を倒せなんて言わんよ。特技やスキルを見せてもらって、実戦で通用するかどうかを見極めるだけだ。ただし一発試験な分、判定は厳しめにいくけどな。」


そういって男はジッとユウを見つめてきた。




「どうするユウくん?私は半年間教育を受けるのも全然大丈夫だよ?」


アルはそう言うが、ユウはそれではおさまらない。半年間色々教えてもらうことも大切だが、今は少しでも早く自立したいのだ。




「実技試験でお願いします。」






〜〜〜〜〜






冒険者ギルドの裏手、修練場で男とユウは対峙していた。




「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はシルバってんだ。よろしくな。」


「ユウです。よろしくお願いします!」




そう言って訓練用の木剣を構えた。


シルバと対峙して、すでに2つのことが分かった。




ひとつめは、今まで戦ってきた相手とは比べ物にならないほどシルバが強いということ。


目の前に現れた時から実力者であることを感じていたが、こうして対峙するとさらにそれを強く感じる。




そしてもうひとつは、シルバには今のユウでも確実に勝てないということ。


修練場に向かう最中に何かを変換することを考えたが、何を変換すればこの男を越えられるのか皆目見当もつかなかった。




「さてと・・・じゃあそろそろ始めるか。」


そうしてシルバはゆっくりと、かと思いきや速くこちらに歩き出した。




「っ!」


強化された目でもってしても完全に追うことが出来ない不可思議な歩法で距離を詰められ、切り上げられるところを辛うじてガードした。




「ほぉ、普通に動きも追えてガードもできるな。上々上々。」


そう呟いた声が聞こえたと思えば、刹那何太刀もの攻撃がユウを襲った。


全てを防御することができず、何発かをもらってしまう。


初撃の切り上げほどではないが、一発一発重さもあり身体にダメージを入れる。




「耐久力も問題なしと・・・だが攻撃力もないとな。」


そう言ってシルバは少し自分から距離をとった。




「はぁっ!!」


すかさずユウは攻めに転じるが、ユウの攻撃は悉くいなされてしまう。


先程ダメージを受けて体の動きが悪くなっているのも、攻撃が通らない原因のひとつだろう。


その間にもシルバは寸止めのカウンターをするなどして、こちらの反応をみていた。




・・・完全に試すに徹されている。


ユウは特別プライドが高い訳でもない。だが今の現状は男として悔しいし、何より攻撃力を見せないと試験には受からない。




(攻撃を食らい過ぎて体の動きが悪い。・・・それなら!)


目の前の壁をどうにかするために、ユウはまた変換スキルを使うことを決心した。




――倦怠感を変換します。




機械的なアナウンスが脳内に流れて、ユウの身体は現状を打破するために組み変わる。


先ほどまで感じていた疲労や痛みによるダルさが無くなり、それどころか身体能力はさらに強化された。


数秒前に比べてユウの動きは格段と早くなり、瞬間で距離を詰めてシルバの脇腹を捉えることに成功する。


そうして木剣を振りぬいた時気付いた。




(・・・なんで振り抜ける?)




今使っている木剣は刃も滑らかで、間違っても切れるものじゃない。


それを振り抜けるということは、シルバは吹き飛ばされていないとおかしい。だがシルバは依然、目の前に存在している。




すっと自分が持っていた木剣を見ると、シルバを捉えた部分は爆散したかのように無くなっていた。


シルバはユウ渾身の一閃を微動だにせず鍛え上げられた身体で受け止め、あまつさえ武器を破壊して見せたのだ。


「・・・よし、終わりだな。」




シルバがユウの眼前数ミリのところに剣の先を向けた。


ユニークスキルを使えるようになって、初めての敗北だった。

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