第10話 番人ひとり
あの後すぐに、村の皆を集めて弔った。
火葬後に村の中央に大きめの石を立てて、その下に骨を埋めた。
そして傷やダメージを治すために、もう一度変換スキルを使用した。
変換したのは脂肪だ。健康を維持に必要な最低限の脂肪を残して、残りは自然治癒力へと変換する。
盗賊達の死体は少し悩んだが、乱雑に並べて燃やした。放置して魔物のエサにしてもよかったが、この村が汚れてしまうと考えたのだった。
そうして夜になる。こんなに寒く感じるのは余計な脂肪が無くなったからか、大切な人たちがいなくなったからか。おそらく後者だろうな。
結局一睡もできず凍えただけで夜は明け、朝を迎える。外が騒がしいと思ったら、どこからともなくゴブリンが村に入ってきていた。
どうやら廃村になったことを感じ取り、村の家屋を住処にしようと来たらしい・・・
倦怠感が残る身体を動かし、ゴブリンの眼前に出てボソリと呟いた。
「・・・この村にお前らの居場所は無い。」
数分もしないうちに、来ていたゴブリン共は全て肉片となった。こいつらが凄いのは繁殖力だけで、変換スキルで強化された俺が負けることは無い。
そうして少しすると、今度はゴブリンの死臭に釣られてウルフ系の魔物が集まってきた。そのウルフ系の魔物も全て殺して、次は全ての死体を燃やす。
燃え盛る火をぼーっと見つめながら、ユウはこれからのことを考えていた。
人の気配が無くなり家屋や田畑だけが残ったこの村には、今後も魔物が住み着こうとするだろう。
これからずっと、大切な村を守り続けよう。
そのために、変換スキルについても調べよう。
大丈夫。一人は慣れている。
〜〜〜〜〜
1週間が経った。
人が居なくなったこの村には、毎日最低でも2回は魔物共が訪れる。
元々カリア山は魔物が多いと聞いていたが、人間の気配が消えてこの辺一帯はさらに活発になったようだ。
そんな魔物たちを、ユウはただ無為に狩り続けている。
そして変換スキルについて2つのことが分かった。
ひとつは、変換スキルで変換したものは2度と元には戻らないこと。
盗賊たちとの戦いで傷ついたユウの身体は、強化された自然治癒力によってとっくに回復している。
だが左目の視力は戻ることがなく、右目の強化された部分だけ左目に変換することもできない。
鏡を見てみると、左目は白目の部分も黒く染まり、まるで穴が空いているかのような状態になっていた。
その他の「痛覚」「恐怖心」「焦燥感」「余計な脂肪」に関しても、今後回復することはないのだろう。そういったものが不要な身体に変換されたのだ。
そしてふたつめは、変換するものによって効果に差があるということ。これは変換スキル自身が教えてくれた。
教えてくれたのはスキルを使用した時に聞こえた音声だ。変換するものは価値が全て同じなのか?と頭で考えた瞬間、アナウンスが聞こえた。
失うことで不便になる部位ほど、変換した時の効果が大きいらしい。
ここまでの変換で一番効果が大きかったのは左目だ。五感のひとつである視覚を半分と考えれば当たり前だろう。
肉体のストッパーである痛覚も大きな部分だったようだ。次いで感情の起伏の一端をになう恐怖心と焦燥感、たいして大きな影響がない余計な脂肪は一番効果が低かった。
ちなみに心臓だとか、死に直結するものは変換できない。そもそも選択できなかった。
ちなみに今までの変換によって、眼力と身体能力と自然治癒力が強化されている。
中でもこの眼力には助かっている。今だって、こうして考え事をしながらでも魔物を蹂躙できているのは、全てこの眼力のおかげだ。
ただあれ以来、ユウはこの変換スキルを使用していなかった。様々なものを変換したとき、自分が自分じゃなくなってしまうのではないかと思ったからだ。
恐怖心こそないものの、なんとなくそれは嫌だなと思った。本当に勝てない相手が現れた時、何かを犠牲にしようと思う。
そんなことを考えながら、今日もユウは魔物を駆逐している。
・・・もういなくなったな。帰ろう。
全身血濡れを井戸の水で簡単に洗い流し、ユウは家に入っていった。
あれから毎日、そんな生活を続けている。
〜〜〜〜〜
次の日、ユウはいつも通り来るであろう魔物達を待っていた。
そして強化された視覚によって、村に近づく複数の存在をとらえる。
それはいつものような魔物ではなく、馬にまたがる複数の騎士の姿だった。
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