第9話 孤独の再来

「おおおれのうでがああぁぁぁぁ!」




そういって目の前の傷の男は、付け根から切られた腕を押さえて膝をついた。ユウはそんな男を無関心に見下ろしている。




初めて発動した“変換”というスキル。これがユウにもたらした変化はすさまじいものだった。




さっきまでは男の一挙手一投足が見えなかったが、今ではスローに見えるし何となく先の動きも読める。痛覚も恐怖心も変換されて何かに変わったのだろう。人間の腕を切り落とすのにためらいも感じなかった。




先ほどまで脅威を感じていた傷の男が、今では取るに足らない雑魚に成り下がった。


カタを付けようと思い近づくと、先ほどの叫びを聞いたからか残りの盗賊がワラワラと集まってきた。




「ぐぅぅ・・・おいてめえら!こいつを殺せ!」




最初は片腕を無くした自分たちのボスに戸惑いながらも、その声によってユウの周りを取り囲み始めた。




数は15人ほどか。恐怖心が無いせいで全く焦りも感じない。感じるとしたら怒りだ。お前らの服についている血は、いったい誰のものだ。




そうしてユウは剣を構えて手近な盗賊をひたすら切っていった。切って切って切り続け、数分もしないうちに集まった盗賊たちは全員血の海に沈んでいた。




「くそっ!なんなんだてめえは・・・!こんなのおかしいだろうが!」




そういって左手に剣を持ち、一人突っ込んでくる傷の男。恐怖も隠せていないその隙だらけな剣を弾き飛ばし、無防備な顔面を殴り飛ばした。




先ほどと違い、今度は男の方が10mほど吹っ飛ぶ。そのままユウは倒れている男に近づき、馬乗りになって殴り続けた。




最初こそ何か呻いていたが、殴り続けるとそれも無くなった。さらにしばらく無言で殴り続けて、骨が砕ける音がしたところでユウは殴るのをやめてフラフラと村の中央へ向かった。




~~~~~




村の中央には、村のみんなが寄り添うように固まって横たわっていた。


本来ならばあんな男に執着せず、少しでも早くここに来るべきだった。どうやら焦燥感を変換したせいで、そういった思考も出来なくなったようだ。




性能が良くなった右目は、人が死んでいるかどうかも一目でわかるらしい。皆の死を確認して進む中で、ただ一つ残っている命を見つけて駆け寄った。




「じいちゃん!じいちゃん!」


「うぅ・・・おぉ、ユウか。・・・死ぬ前に会えるとは・・・嬉しいのう・・・」




バランと同じようにそう言って、ゼレは優しくほほ笑んだ。




「じゃがどうして・・・盗賊は・・・」


「盗賊はみんな倒したよ。・・・ごめんじいちゃん、ごめん・・・」




罪悪感は変換していない。一番近くにいた存在がまだ生きていて、ユウは懺悔するように色々な思いを吐き出した。


最低な願いを一瞬でも考えてしまったこと、自分を守ってバランが死んだこと、もっと早くにスキルを使いこなしていればこんなことにならなかったということ。




様々な思いを伝えて、それでもゼレはにっこりとほほ笑んでいた。




「そんなに悩んでしまうほど、この村の皆を大切に考えてくれていたのじゃな・・・」




そういってゼレは手を伸ばし、ユウの頬を触った。




「ユウ・・・今までこの村を助けてくれて、皆を幸せにしてくれてありがとうな。これから先も・・・皆はお前の味方じゃ・・・恨んだりせん・・・」


「風邪を引かないようにな・・・誰にでも優しく・・・たくさんの人に愛される・・・今のユウのままでな・・・」




そうして次は自分の番だというように、ゼレはユウに伝えたいことを伝え続けた。ユウもそれをうんうんと聞き続け、しばらくしてついに頬にあった手が落ちていった。


最後までゼレはいつもと変わらない、優しい顔で眠っていった。






こうしてユウはまた、独りになった。

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