いやっ。きらい。
「いやっ。きらい」
そんな酷い言葉を残して、部屋に戻って行った。
「なっちゃん。待ちなさい」
一瞬、私は夏美の方を追いかけようかと思ったけど……。
今、最愛の娘から『きらい』と言われて、滝のように涙を流してるこの男……って、拓海くんなんだけど。どうしよう。
「な……なんで? 着替えさせようとしただけなのに……なんで?」
え~い。大の男が、えぐえぐ泣くな、みっともない。
「いや……最近の保育園児はおませだから……」
ハハハって私は空笑いする。いや、私にもわかんない、昨日までは素直に拓海くんに着替えさせてもらってたんだから。
取りあえず、私は娘……夏美の部屋に入った。
案の定、ベッドの上で、ブスくれているよ。
「何が気に入らないの。パパ、大泣きしてるよ」
「だって……」
「だって?」
「みんなじぶんできがえてるって……。パパにきがえさせてもらってるこ、いないって」
あ~、なるほど。
「園でバカにされたんだ。ふ~ん」
「ふ~ん。って、みんなにだよ。あきちゃんもさとこちゃんも。……しょうくんにまで、わらわれて」
「翔くん? 今泉翔くん?」
「……うん」
そ……っか、好きな子から笑われたらつらいよね。でも
「だからといって、パパを傷付けて良いの? パパ、なっちゃんの事大好きなんだよ。なっちゃんは、翔くんからいきなり『きらい』って言われても平気?」
「やだよ。ないちゃう」
「パパは、泣いてるのっ。大好きななっちゃんから『きらい』って言われて」
夏美は、あきらかにショックを受けた顔をしていた。
「着替えさせてもらうのが嫌なら、『きらい』って言うより先に、自分で着替えるって言うべきでしょう?」
そこまで、言ったら夏美は部屋を飛び出していった。
「パパ~。ごめんなさい」
夏美を着替えさせようと、膝立ちになっていた拓海くんに飛びついた。
……って、まだそのままの格好で泣いてたんだ。
夏美から、よしよしされて拓海くんは自分の涙を拭ってる。
う~ん、どういう光景なんだろう。
「なっちゃんは、また一つ大人になったんだねぇ。パパは、さみしいよ。着替えも自分でしてしまうなんて」
昔から、お世話するの大好きだものねぇ……って、そういえば小学校の低学年まで、私の着替え手伝ってなかった? 拓海くん。
当時は、私もボーッとした子どもだったから、当り前のように着替えさせてもらっていたけど……あれ? おかしいよね、同じ歳の男の子に着替えさせてもらうのって……。
わたしが昔の事を思い出していると、夏美が爆弾発言をした。
「だって、しょうくんからも、わらわれたんだもん」
あっ、拓海くんが固まった。
「しょう……くん?」
「うん。しょうくん……って、ほかのこからも、わらわれたんだよ。あきちゃんとか……」
夏美が焦りだした。ダメだよ、拓海くんの前で男の子の名前なんか出したら。
あ……ほら、ガシッって掴まれた。笑顔がこわいよ。
「誰? しょうくんって、パパもお友達になりたいなぁ」
「こらこらこら、パパ。それ以上は、なっちゃんが泣いちゃうから」
バリッと娘から、拓海くんを引きはがす。
「なっちゃんも、自分の部屋で着替えておいで。おやつ出すから」
「は~い」
夏美は、さっさと自分の部屋に引っ込んだ。
多分、私が呼ぶまで出てこない。
「あ……なっちゃん。パパまだ……」
「ふ~ん。そっか……。娘が出来たら、私はほったらかし」
放っておくとなっちゃんの部屋まで入っていって問い詰めそうな拓海くんを横目でチロッと見て、私はキッチンに向かう。
「両方大切にしてくれるって言うから産んだのに……」
「美佳ちゃん? 大切にしてるよ。二人とも大事だよ。大事だから……」
「だったら、なっちゃんの事は放っときなさいって、所詮4歳児のおままごとでしょ? あの頃の好きだのなんだのは……」
「そんなことないよ、僕だって」
「だとしても……よ。そりゃ、もっと大きくなって変な男と付き合いだしたら別だけど……。そうじゃない限り、放っといたら良いのよ。今のうちに見る目育てなきゃ」
拓海くんは、納得してないって顔をしているけど、私に抱きついてきた。
「美佳ちゃんは……さ。どうなの? 見る目育った?」
見る目育てるも何も……。拓海くんがずっとくっついてたから。
だから、私は笑って言った。
「拓海くん次第だと思うわ」
拓海くんは、やっぱりよく分からないって顔をしてたけど、そういう事なのだと思うよ。
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