なれそめ

「ぼくねぇ。けっこんしたら、おくさんとこどもと、いつまでもなかよくくらしたいんだ」

 同じクラスの相沢拓海くんは、女の子に囲まれながらそんな事を言っていた。


 時は、空前の結婚ブーム。付き合う間もなく、みんな結婚してた。

 ……幼稚園児の話だけれども。


 拓海くんは、やたら女の子にもてていた。顔が可愛くて、優しくてよく気が付く。

 これで、もてないはずがない。ただ……

「あっ。みかちゃんだぁ~」

 そう言って、私の元に走り寄ってきた。私の横には、同じさくら組の男の子がいたのに、私の腕をグイッと掴んで。


「ぼくねぇ。みかちゃんとけっこんするんだよ」

 拓海くんを囲んでいた女の子達に向かってそう叫んでいた。

 そんな無神経さがあった。

 私と『けっこんしよう』と言ってくれていた、さくら組の男の子は固まり。

 その瞬間、私は幼稚園の女児のほとんどを、敵にまわしたのであった。

 

 後の事は、思い出したくない黒歴史だけど。


 なんで、結婚したんだっけ……。

 なんとなく家が近くで、集団登校で登下校は同じ。中学に入っても、付き合ってるってわけじゃないのに、一緒にいた。

 高校は、別々だったな。休日になると、うちにやって来てたけど。


 大学のカフェテラスで、話し合ったのが一年生の頃。

「子ども……欲しいんなら、他の子探した方が良いよ。結婚相手。私、仕事優先したいし……」

 しつこく付きまとってくる拓海くんに、私はそう言ったっけ。

「子ども……欲しくないの?」

「仕事出来無くなるなら、結婚もしたくない」

 そう、私はキッパリ言った。幼稚園児のなんちゃって結婚とは訳が違うのだ。

 拓海くんは、少し考えているようだった。


 別にね。拓海くんが嫌なわけじゃないのよ。好きだし。

 でも、結婚って違うでしょう? 好きなだけじゃ、続かないでしょう?

 拓海くんとの子どもだって欲しいけど、それで仕事出来無くなったら、拓海くんを恨んでしまうかも知れない。


「わかった」

 拓海くんが真剣な顔をして、私を見てくる。別れようって言ってくるのだと思った。

 ……いや、別れるも何も、私たちまだ付き合ってない。そういえば……。

「仕事、続けたら良いよ。子どもは、美佳ちゃんが欲しくなったらで良い。結婚を前提に付き合おう」

「やだよ、だって拓海くんが我慢するって事でしょう? 最初は良くても、恨み言が出てくるよ。長い人生なんだよ」

「だけど、子どもがいて大変なのは女性の方だろ? 僕がいくら頑張ってイクメンしても、それでも、美佳ちゃんの方が、大変だから。だから、良いよ」


 なんか、そんな風に言われて断れなくなって、彼とは別々の会社に就職して、その年に結婚式を挙げた。

 

 拓海くんは、可愛い容姿から、イケメンに変わっていたけど、優しくて良く気が付く旦那様だ。何で、ずっと私と結婚したがっていたのかは、わからない。


 だけど、気が付いたら紙切れ一枚の婚姻届けいやくしょのもとに一緒に暮らしている。

 

 なぜなのかは……分からなくても、幸せだから、いっか。

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