第3話 些細な気遣い

スマホがメッセージを着信した。

どうやら勝原3兄弟が家に来たみたいだ。

私も出かける準備は出来ていたのですぐに部屋を出る。


「んじゃ、愛莉ちょっと遊んでくるね」

「忘れ物はない?」

「大丈夫」


そう言って家を出ると如何にも走り屋っぽい白い車が止まっていた。

勝原3兄弟はゲームで知り合った友人。

もちろん3人ともそれなりに下心を持って私に接してきている。

それを利用して適当に遊んでいる。

今日は遊園地に遊びに行く予定だ。

車に乗り込むと運転手の江斗は快調に飛ばして高速に入る。

残りの江耀と江棋は私にマシンガントークを飛ばしてくる。

頃合いを見て私は言う。


「あ、いけない。財布忘れちゃった」


語尾に「てへぺろ」とでもつけるような言い方で謝る。

この3人と遊びに行くときは私は財布は持って行かない。


「大丈夫。冬莉ちゃん働いてないんでしょ」

「俺達が冬莉ちゃんの分も出すから問題ないよ」


毎回同じことを言う。

働いてないけど私の月収はこの3人の月収をまとめた分より多い。

そんなことは言わずに猫なで声で「いつもごめんね~」という。

遊園地に着くとチケットを買ってもらってゲートをくぐる。


「冬莉ちゃん何乗りたい?」

「なんでもいいよ~」


本当に何でもよかった。

どれも大して面白くないから。

いい年して遊園地って発想がどうなんだと思うけど、そんな事は決して口にしない。

私達は色々な乗り物に乗りながら「私の隣に誰が座るか」で必死になっている。

私の隣に座る権利をオークションでもしようかと思うくらいの必死さがある。

昼食も奢ってもらって夕方まで遊ぶと遊園地を出て夕食を食べて家に帰る。

もちろん夕食は奢ってもらう。

最初からびた一文出す気が無かった。

だから財布は家に置いてきた。

いつもそうやってる。

3人はなかなか帰ろうとしない。

なんだかんだ言って車であちこち走り回って帰らせない。

夜中まで走っていたらホテルに連れ込めると思っているのだろう。

正直つまらないけど、そんな表情は絶対に見せない。

ただ残念そうに3人に告げる。


「ごめんなさい。愛莉が『いい加減帰ってきなさい』って言うから……」

「そっか。じゃあ、家に送るよ」


そうやって家に帰ると「またね~」と言って家に帰る。

いつも通りだ。


「ただいま~」


家に帰って部屋で着替えようとすると愛莉に呼び止められた。

私はリビングに行くとパパと愛莉が座っていた。

なんかあったのだろうか?


「どうしたの?」

「冬莉今日も財布忘れてたでしょ?」


愛莉が気づいたらしい。


「遊ぶのに財布忘れて大丈夫だったの?」


パパが聞いてきた。


「大丈夫だよ。3人が金出してくれるから」


別に隠す必要もないので正直に話した。


「なるほどね」


パパは納得したようだが、愛莉はそうはいかなかった。


「冬夜さん、それではいけません。毎回男にお金をたかっているのですよ?」

「でも愛莉。デートって大抵男がお金を出すだろ?」

「デートじゃないよ。遊んでるだけ」


嘘はついてない。

私はあの3人に好意なんて全くないのだから。

ただ暇つぶしに便利だから利用しているだけ。

単なる友達。

それ以上でもそれ以下でもない。

そう両親に説明した。

当然の様に愛莉が怒り出す。


「冬莉だって十分お金もってるでしょ!何を考えているのですか!?」

「何って3人に付き合ってやってるんだからそのくらいの見返りあったっていいじゃん」

「そんな風に男を弄んでいるといつか痛い目に遭いますよ」

「大丈夫、護身くらい出来るから」

「そういう事を言ってるんじゃありません!」

「まあまあ、愛莉。落ち着いて」


パパが愛莉を宥める。


「冬夜さんも冬莉の態度に問題あると思わないのですか?」

「うん。僕も男親だからね3人の気持ちがわかるんだ」


女性にお金を払わせるのはみっともないとパパは考えているらしい。

だから女性は便利なんだ。


「ですが、冬莉のような性悪な娘をしかるのは親の務めですよ」

「叱る必要がないよ。ただアドバイスくらいはしてやってもいいんじゃないかってね」


アドバイス?


「冬夜さんは何か考えがあるんですか?」


愛莉がパパに聞いていた。


「冬莉の話を聞いていたら、昔の話を思い出してね」

「昔ですか?」


何があったんだろう?


「愛莉は昔僕とデートしている時も僕の財布の中身を心配してくれていてね」


パパは両親から小遣いをもらっていたから、問題ないと言ったけど愛莉はそうは思わなかったらしい。

それでレジでもめるのを嫌ったパパは愛莉に財布を預けたんだそうだ。

それでやり繰りしてくれって。

すると愛莉は小遣い帳をつけてしっかりパパの小遣いを管理するようになった。


「けど、それが今の話とどう関係が?」

「愛莉は覚えていないかい?お好み焼きの話」

「お好み焼き?」


愛莉は首を傾げていた。


「僕がうっかりカードでお金を引きだすのを忘れていてね。その事に気付いた愛莉がそっと自分の財布から足りない分を出して、後で財布の中身が残ってないことを教えてくれたんだ」


パパに恥をかかせないように店を出て車の中で教えてくれたらしい。


「言ってる意味がわかるかい?」


全然わからない。


「冬莉は愛莉に似てもてるんだね。だから3人ともお金を出すんだろう。それでもいいんだけどもっといい方法があると思うんだ」


それが今の話と関係あるの?


「例えだすつもりが無くても『私の分払う』と言って財布を取り出す素振りを見せるだけで、印象は大分変ると思うんだけど」


もっと素敵な女性に見えると思うよ、とパパは言う。


「冬莉は今でも十分素敵な娘だ。でももっと自分を磨けばもっと素敵になれると思うんだけど、どうだい?」


反論できなかった。

パパの術中にはまってしまった。

パパは愛莉のようにただ叱るのではなく、こうやってアドバイスをしてくる。


「……次から財布くらいはもっていくよ」

「賢さも愛莉に似たようだね。物分かりの良い娘で助かるよ。もう遅いからお風呂に入って寝なさい」


パパがそう言うと話は終った。

私は風呂にはいって部屋に戻る。

パパと愛莉は相思相愛と聞いていたけどそんな話があったのも初めて知った。

ただ奢らせるだけじゃなくてほんの些細な気遣いが、より自分をキレイに見せるんだな。

そんな話をチャットでクルトにしていた。


「それ、僕に言っていいの?効果ないと思うんだけど」


それとも僕はその対象に入ってない?

クルトはそう言って笑った。

どうしてクルトには何でも話せるのだろう?


「試してみたいから今度クルトと遊びに行きたい」

「……別に僕はそういうつもりでLiliに接してるわけじゃない」


確かにクルトは私を誘ったりはしない。

単なるゲームのパートナーにしか過ぎない。

だから私から誘ってみる気になった。


「私が相手じゃ不満?」

「そんな事は無いよ。そういうの初めてだから」

「じゃ、今度ドライブでも連れてってよ」

「わかったよ」


どうして私はこんなにクルトに拘ってるのだろう?

そして3人には悪いけど……クルトに会える日が何より一番楽しみだった。

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